【11月5日 AFP】長らく敵対関係にある台湾と中国が4日、歴史的な経済協定に調印するなか、台北(Taipei)の総統府前では数千人が反中デモを行った。デモに参加しているHsiao Tien-muさん(51)が恐れるのは、「生活への影響」だ。

「中国人労働者は、月々1万台湾ドル(約3万円)もあれば家族を養っていける。彼らが大量に流入してきてわたしたちの仕事を奪ったとしたら、わたしたちの生活はどうなります?」とHsiaoさんは話す。 

 中国の対台湾窓口機関、海峡両岸関係協会(Association for Relations Across the Taiwan StraitARATS)の陳雲林(Chen Yunlin)会長は3日、経済関係強化を協議するため5日間の日程で台湾入りした。1949年の中台分断以降、訪台した中国要人としては最高位となる。陳会長には政府高官と経済界トップ60人以上が同行した。

 翌日の4日、陳雲林会長と、台湾の海峡交流基金会(海基会、Strait Exchange Foundation)の江丙坤(Chiang Pin-kung)理事長は、両国の経済関係強化を目指し、直行便の運行などを取り決めた経済協定に調印した。

■「教育の質落ちる」と学生にも不安

 協定を機に、中国人がよりよい生活と大きな自由を求めて台湾へ大量流入すると心配しているのは、Hsiaoさんだけではない。台湾と中国では、文化と言語がさほど違わないという背景がある。

 安い労働力と低コストを求めて中国に移転する工場が相次いでいるため、すでに台湾では多くの工場が閉鎖され、職を失う人が続出している。1990年代初頭以来、台湾が中国に投資した額は推定で1500億ドル(約15兆円)にのぼる。

 Hsiaoさんは、3月の台湾総統選挙で親中派の馬英九(Ma Ying-jeou)氏が当選し、中台関係が改善に向かってきたころから不安がつのってきたと打ち明ける。

 労働者が失業への不安を抱える一方、学生は中国人の大量流入で教育の質が低下する可能性があることに不安を覚えている。国立台湾大学(National Taiwan University)のある学生は、中国の教育水準は台湾ほど高くなく独立性にも欠けるとして、中国人の学力適性を承認するという政府の方針に異議を唱えている。

 中国の食品の安全性への懸念もある。台湾では、中国の乳製品から有害物質メラミンが検出され、子ども3人を含む4人の健康被害が報告されていることから、中国からの乳製品の輸入をすべて禁止している。(c)AFP