【10月15日 AFP】チェコ出身の作家で、『存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)』など、スターリン体制下での生活を暗い喜劇調で描いた作品で著名なミラン・クンデラ(Milan Kundera)氏が13日、1950年にチェコ共産党政権の秘密警察に脱走兵を密告したとのうわさを強く否定した。

■クンデラ氏「徹底的に反論する」

 クンデラ氏は著作の版元であるフランスの出版社ガリマール(Gallimard)を通じ「そうした非難はまったくのうそ。わたしは徹底的に反論する」と声明を発表した。

 共産政権時代の調査を進めるチェコ政府の運営組織「The Institute for the Study of Totalitarian Regimes(全体主義政権研究所)」は同日、軍から脱走して米国の支援を受ける情報員に転じ、後に禁固22年の刑を宣告された元軍パイロット、Miroslav Dvoracek氏(80)について、クンデラ氏からの密告があったとする当時の警察報告を発表した。

 クンデラ氏はCTK通信に「まったく知らない男性だ」と述べ、即刻疑いを否定した。同氏はこれまで数年間、取材を拒否してきたが、今回の件は、この研究所とチェコのメディアによる「一作家に対する攻撃だ」と激しく憤り、歴史家が発見したという警察の資料はまったくの謎だと語った。「自分の記憶にだまされたことはない。秘密警察のために働いたことはない」

■チェコ政変で出国、情報員として帰国した「脱走兵」

 同警察資料がクンデラ氏に密告されたとするDvoracek氏は、1948年のチェコ政変で共産党政権が樹立した後、出国。ドイツの難民キャンプで米国の防諜(ぼうちょう)要員に誘われ、その後チェコへ帰国したが、逮捕されるという結果になった。死刑は免れたが1950年9月に禁固22年の刑を言い渡され、52年には多くの受刑者と同様、ウラン鉱山の採掘場に送還された。63年に釈放されて以降現在までは、スウェーデンに在住している。
 
 13日、AFPの取材に応じた妻のMarketa Dvoracekさんは「夫は密告のあったことは知っていた。密告したのが誰であろうと、彼にとっては何の違いもない」と述べた。Dvoracek氏は最近発作を起こしてから、健康状態が優れないという。

 チェコのメディアで、作家として高名なクンデラ氏の名前が取りざたされていることについては「驚かない」と述べ、「彼は素晴らしい作家だが、人間としての彼にどんな幻想も抱いてもいない」と語った。(c)AFP/Sophie Pons