【10月12日 AFP】米国内でも無名に近い政治家から一躍アメリカで最も注目を集める女性になった共和党副大統領候補のサラ・ペイリン(Sarah Palin)アラスカ(Alaska)州知事に「そっくりさん」が登場し、本人のイメージが薄くなるほどの爆発的な人気を集めている。

 この数週間というもの、何百万人もの米国内のテレビ視聴者や世界のインターネットユーザーは、ペイリン氏とうり二つの役者が繰り出す「ペイリン節」に爆笑している。米NBCテレビで30年以上続く看板風刺番組「サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)」でペイリン氏を演じるのは、コメディ女優のティナ・フェイ(Tina Fey、38)だ。

 1週間前のサタデー・ナイト・ライブ、ペイリン氏役のフェイは、民主党ジョー・バイデン(Joe Biden)副大統領候補役の俳優に向かって「ジョーって呼んでもいい? ジョーって呼ぶ場面をいろいろ練習してきたものだから」とにっこり。副大統領討論会を「再現」したパロディだ。

 おなじみのアップにしたヘアスタイルに縁なしの眼鏡、庶民的なミッドウエスト風のアクセントで語り、カメラにウインク。見かけだけではない。外交問題が議題になった場面での失言でさえ、番組の創作ではない。ペイリン氏の公の顔そのままを、ほぼ正確に演じているといえる。

■本家も認める「実力」

 2人の外見は尋常でないほど似ている。実はペイリン氏のほうが、フェイと自分がそっくりであることに以前から気づいていたようだ。ペイリン氏は前月フォックス・ニュース(Fox News)に出演した際、ハロウィーンの仮装で「ティナ・フェイ」に仮装したことがあることを明かした。

 米ワシントン・ポスト(Washington Post)紙のテレビ評論コラムニスト、トム・シェイルズ(Tom Shales)氏は、フェイは「本人よりペイリンっぽくなって、現実よりヒドいパロディを作ることを目指しているのだろう」と評した。

 しかし、 ニューヨーク(NewYork)のフリーペーパー「amNewYork(エーエム・ニューヨーク)」の取材に対し、ノースイースタン大学(Northeastern University)のアラン・シュレーダー(Alan Schroeder)教授は「サラ・ペイリン自身の人物像が確立しないうちにティナ・フェイが人気を集め、フェイの演じるイメージが不動のスタンダードのようになってしまい、本物のペイリン氏にとってはマイナス」と論じる。

 サタデー・ナイト・ライブの台本を制作するライター陣の初の女性チーフとなったフェイは、現在は同じくNBCのコメディ番組「30 Rock」の主演、プロデューサー、ライターを兼任しており、この番組で「ゴールデングローブ賞(Golden Globe Awards)」を受賞した。

■フォード元大統領は風刺で落選した?

 政治風刺は米国テレビ文化の大きな要素のひとつだ。1976年の大統領選中、故ジェラルド・フォード(Gerald Ford)元大統領のさまざまなパロディが演じられ、特にサタデー・ナイト・ライブではコメディ俳優チェビー・チェイス(Chevy Chase)が間抜けに演じた。現職だった同大統領はそうした風刺のせいで落選したとみる専門家さえいる。

 ペイリン氏の登場で、米ニューヨーカー(New Yorker)誌の漫画家たちもサタデー・ナイト・ライブ同様、「ネタ」に事欠かなくなった。最新号の漫画では2人の女性の一方が「わたしは共和党候補に入れるわ」と言う。すると相手はこう答える。「そうね。そうすればティナ・フェイの物まねをずっと見られるものね」(c)AFP/Paola Messana