【10月10日 AFP】10日に発表される2008年ノーベル平和賞の有力候補として、中国の人権活動家、胡佳(Hu Jia)氏と高智晟(Gao Zhisheng)氏、そしてチェチェン共和国で人権擁護活動を行う弁護士のリダ・ユスポワ氏の名前が挙げられている。

 08年は国連(UN)の世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)の採択から60周年となることから、中国とロシアの人権状況に国際社会の目を集めるため、この2つの国のいずれかの人権活動家が受賞するとみられているのだ。

■人権状況に問題がある国に世界の注目集めるため?

 ノーベル賞選考機関であるノルウェー・ノーベル委員会(Norwegian Nobel Committee)の委員5人は、北京五輪後の中国政府に対し、人権状況を改善するという約束を果たすべきだということを、はっきりと認識させるような人物を選ぶ可能性があるとされている。

 胡氏は人権問題のほか環境保護やエイズ問題についても活動を行っている。高氏は弁護士で、両者はいずれも中国で投獄されている。オスロ(Oslo)の国際平和研究所(International Peace Research Institute)のスタイン・トネソン(Stein Toennesson)所長によると、この両氏がノーベル平和賞の最有力候補だという。

 中国政府は、人権活動家がノーベル平和賞候補に挙がるたびに反対し「正しい選択」をするよう求めており、今回、胡氏が同賞の候補として名前が挙がっていることについても不快感を示している。

 ほかにも中国の候補者として、民主化運動活動家の魏京生(Wei Jingsheng)氏、ウイグル人の人権活動家ラビア・カーディル(Rebiya Kadeer)氏の名前も挙がっている。

 一方、ノーベル平和賞をユスポワ氏に贈り、ロシアに注目を集める可能性もある。ユスポワ氏は、ロシア人権団体「メモリアルのグロズヌイ(Memorial in Grozny)」の元代表で、チェチェン全土で行われた拷問、誘拐、処刑の情報や統計を収集。欧州評議会(Council of Europe)の欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)はユスポワ氏の情報を基に、ロシア政府に多数の人権侵害で有罪判決を下した。

■平和賞の「本来の定義」に戻るべきとの声も

 さらに、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の医師、Denis Mukwege氏も有力候補の一人だ。パンジー(Panzi)に病院を建設し、同国で数十万人にのぼるといわれる性的暴力被害者の女性のケアを行っている。元国連人道問題担当事務次長でルウェー国際問題研究所(Norwegian Institute of International Affairs)のヤン・エグランド(Jan Egelangd)氏によると、現在はアフリカ諸国の「忘れられた戦争」、つまりコンゴの国家分断の原因となった動乱などに世界の注目を集めるのにちょうどよいタイミングだという。

 エグランド氏はAFPに対し、ノーベル平和賞の枠が近年、環境保護などの非伝統的な領域に拡大したことについて、「平和の概念を広げるのはいいことだが、当初の平和賞の定義に該当する人たち、つまり戦争や武力紛争などの犠牲者のために尽力している人たちのことを忘れてはいけない」と語った。

 ほかにも有力候補として、さまざまな人物・団体の名前が挙がっている。世界約200のNGO連合「クラスター爆弾連合(Cluster Munitions CoalitionCMC)」、南米コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(Revolutionary Armed Forces of ColombiaFARC)」の人質となっていたフランス系コロンビア人政治家イングリッド・ベタンクール(Ingrid Betancourt)氏、ジンバブエ野党・民主変革運動(MDC)のモーガン・ツァンギライ(Morgan Tsvangirai)議長、パキスタンのイフティカル・ムハンマド・チョードリー(Iftikhar Muhammad Chaudhry)前最高裁長官などだ。

 だが、今年の候補者197人の名前は極秘で、評論家らが挙げる有力候補については憶測の域を出ていない。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes