【7月17日 AFP】英国人の探検家、ルイス・ゴードン・ピュウ(Lewis Gordon Pugh)さん(38)が15日、北極点までカヤックで到達する計画「ポーラー・ディフェンス・プロジェクト(Polar Defense Project)」をロンドンで発表した。氷床が急速に溶けつつあることを世に知らしめるための冒険だという。

 著名なスイマーで「人間ホッキョクグマ」の異名を持つピュウさんは、この試みが失敗することを願っている。体力の限界やセイウチに襲われることによる失敗ではない。成功してしまったら、「地球温暖化の影響で、早ければ今年の夏にも、北極点から氷が無くなるかもしれない」とする科学者らの主張が正しいことになる。ピュウさんは会見で、「可能であってはならない。到達できないことを願う。失敗は、すなわち成功を意味するのです」と語った。

 ピュウさんは、8月29日にノルウェー領スバルバル(Svalbard)諸島をカヤックで出発し、氷河の間を縫いながら1200キロ北上し、北極点を目指す。この旅には最低でも2週間必要だ。

 過去6年間を北極地域で過ごしてきたというピュウさんは、「(気候変動に伴う)劇的な変化を目の当たりにした」と語る。北極点に到達してしまった場合は、氷床が溶けつつあることが全世界に影響を及ぼすことを表す意味で、世界192か国の国旗を立てる予定だ。

 なお、カヤックにはサポート用のボートが伴走する。「海に落ちてしまったら大変危険だ。氷点下の気温、凍り付くような風、高い波の中では、いつ命を落としてもおかしくない。サポートなしで向かうのは自殺行為だ」とピュウさん。

 弁護士として働いていたピュウさんだが、現在は海の環境保護活動に一身を捧げている。世界で初めて、英国のテムズ川(River Thames)を水源から河口まで泳ぎ切った。地球温暖化防止を訴えるために、北極点で泳いだこともある。

 海で危険なのは、泳ぎが得意ではないシロクマよりも、むしろセイウチだという。「シロクマは僕を食べたいだろうけどね」とピュウさんは微笑んだ。

 ピュウさんは南極における領土権主張の凍結などを禁じた南極条約(Antarctic Treaty)と同様の条約が北極地域にも必要だと訴える。「北極を守らなければならない。ホッキョクグマや我々の子孫のためではなく、わたしたち自身が生きのびるために。事態はそれほど切迫しているのです」(c)AFP

ルイス・ゴードン・ピュウさんの公式サイト