【6月17日 AFP】北極地域の資源争奪戦が激しさを増す中、先住民イヌイット(Inuit)たちは、北極海に接する国々に対し、土地の強奪をやめてイヌイットの生活様式を尊重してほしいと訴えている。

 米地質調査所(US Geological SurveyUSGS)によると、北極海の海底には地球上でまだ発見されていない石油と天然ガスの25%が眠っていると推定している。東西冷戦時代、北極圏の不毛な土地は米ソ両国にとって核戦略の「要衝」の1つだったが、今や米国もロシアも埋蔵されているエネルギーを虎視眈々(たんたん)と狙っているといった状況だ。

■資源をめぐる論争、イヌイットは蚊帳の外

 グリーンランドの政治家でイヌイット北極圏会議(Inuit Circumpolar CouncilICC)の会長も務めるAqqaluk Lynge氏は、グリーンランド西部のカンゲルルススアーク(Kangerlussuaq)でAFPの取材に応じ、「北極地域をめぐって現在行われている論争は、イヌイットの土地と水域を支配している国々が行っているものであり、当のイヌイットは隅に追いやられている。このような扱いはこれ以上容認できない」と語った。

 グリーンランドでは5月、北極海に接するカナダ、デンマーク、ノルウェー、ロシア、米国の5か国の外相会議が開催され、石油とガスを豊富に埋蔵する同地域の領有権が議論された。地球温暖化の影響で北西航路(Northwest Passage)の通年航行が2050年までには可能になると見られ、資源へのアクセスが容易になることが予想されることもあり、議論は白熱した。

 だが、北極地域(グリーンランド、カナダ、アラスカ、シベリア)に居住する15万人のイヌイットの権利を訴える非政府組織(NGO)から会議に招かれたのは、Lynge氏だけだった。

■「沈黙の時間は終わった」

 カンゲルルススアークには、かつての米軍基地の敷地が広がっている。このような米軍基地は、第2次大戦時と冷戦時代、当時デンマークの半自治領だったグリーンランド各地に建設された。欧州と北米の中間点にあたり、地政学的に有利と見なされたためだが、こうした基地を建設するために多くのイヌイットが移住を強制された。「土地はみんなで分かち合うもの」という伝統的な考え方に根付いているイヌイットたちにとっては、信じがたい措置だ。

 ちなみに、グリーンランドでは現在、1つのレーダー基地を除くすべての米軍基地が閉鎖されている。

「沈黙の時間は終わった。この土地はイヌイットが共有しているのに、盗まれている。国境も、われわれの許可無く勝手に決められてしまった」とLynge氏は語る。状況を変えたいと考えている。

 その手始めに、ICCは11月にカナダでサミットを開催し、大国間の資源争奪戦にどう立ち向かうかを協議する予定だ。(c)AFP/Slim Allagui