【6月11日 AFP】第二次世界大戦の激戦地のひとつ、硫黄島の戦いにおける黒人米兵の役割について、映画監督兼俳優のクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)と 映画監督スパイク・リー(Spike Lee)の間で舌戦が繰り広げられている。

■「イーストウッド版硫黄島の戦い」は黒人兵が不在

 先に戦いの口火を切ったのはリー監督だ。5月に行われた第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で、リー監督は『父親たちの星条旗(Flags of our Fathers)』と『硫黄島からの手紙(Letters from Iwo Jima)』の硫黄島二部作で、イーストウッド監督が黒人米兵を1人も登場しなかったことに言及し、5度のオスカー受賞を誇るイーストウッド監督が誤った歴史観を見せたと非難した。

 「クリント・イーストウッドは合計すると4時間以上にも及ぶ硫黄島に関する映画を2本撮ったのに、スクリーンには黒人兵士は一人も出てこない」。カンヌ映画祭で最新作『Miracle at St. Anna』のPRを行った際、リー監督はこのように語った。同作品でリー監督は、第二次世界大戦における黒人米兵の忘れ去られた貢献を表現したいという。

■リー批判にイーストウッド、「黙れ!」と反論

 この発言に対し、イーストウッド監督は6日発行のガーディアン(Guardian)紙によるインタビューで、珍しく率直に反論している。

 イーストウッド監督は「彼(リー監督)は歴史的事実をちゃんと調べているのかね?」と言い放ち、硫黄島に上陸した米軍に黒人部隊はいたが星条旗を掲げなかったことを強調。『父親たちの星条旗』について、「この作品は硫黄島に星条旗を掲げる有名な写真について描いたものであり、旗を掲げた米兵の中に彼らはいなかった。もし黒人米兵を描いたなら、『こいつは頭がおかしいのか』と言われていたよ。それは正しくないことだからね」と擁護した。

 これに対し、リー監督はABC Newsのウェブサイトに次のような歯に衣着せぬコメントを掲載し、火に油ぐ形となった。

 「まず第一に、イーストウッド監督は私の父親ではないし、我々は植民地にいるのではない。彼は偉大な監督で、彼は彼の映画を撮り、私は私の映画を撮る。私は彼を個人的に批判したわけではない。それなのに『黙れ』と言われるなんて。クリント、しっかりしてくれよ。まるで怒った老人のようだ」

 リー監督はさらに、「もし彼が望むなら、硫黄島で戦った黒人米兵を集めて、彼らの前で(イーストウッドに)黒人兵のやったことは重要ではなく黒人兵は存在していなかったと言ってもらいたい。私がでっち上げているわけではない。あの歴史をよく知っている。ハリウッド(Hollywood)の歴史も、ハリウッドが第二次世界大戦に貢献した100万人の黒人男女を切り捨てていることも知っている」と反撃している。

■歴史的には両監督とも正しい?

 ところが専門家によると、どちらの監督も正しいことを言っているという。

 『父親たちの星条旗』は、カメラマンのジョー・ローゼンタール(Joe Rosenthal)が撮影した象徴的な写真に登場する、摺鉢山に星条旗を掲げる6人の兵士に焦点を当てている。硫黄島の戦いには700-900人の黒人米兵が参加したが、前線で戦うことはなかった。しかし、上陸の際に水陸両用艇を操縦したり、弾薬を前線に運ぶなど重要な役割を果たしていた。

 ニューヨーク大学(New York University)の教授であり、黒人の退役兵について書かれた本の著者でもあるイボンヌ・ラティ(Yvonne Latty)氏はタイム(Time)誌のインタビューで、「黒人米兵は硫黄島への上陸で極めて重要な役割を果たし、最も危険な仕事に従事した」として、米兵の硫黄島への上陸を描くのなら、海岸に黒人米兵がいるはずだと指摘している。(c)AFP