【6月11日 AFP】注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連した遺伝子が、遊牧生活においては人間を環境に適応させる影響力を持つかもしれないとの研究が、9日の生物学誌「BMC Evolutionary Biology」に発表された。

 米ノースウエスタン大学(Northwestern University)の研究チームは、ケニアの遊牧民を対象に行った調査で、ADHDとの関係が指摘されているドーパミン受容体遺伝子が、牛を放牧する遊牧民の集団においては良好な健康状態と理想的な体重をもたらす一方、最近定住して農業を営むようになった彼らの親族では栄養不良を引き起こした可能性があることを突き止めた。

 研究を主導した大学院生(人類学)のダン・アイゼンバーグ(Dan Eisenberg)さんは、「人間の数ある個性の一部が、状況に応じて進化上有利になったり有害になったりする可能性を示唆している」と指摘。「ADHDを単に病気としてではなく、適応要素の1つとして考えられるようになるかもしれない」と述べた。

 ドーパミン受容体遺伝子は、衝動や期待感、依存などに作用し、食欲やADHDにも影響していると考えられている。

 こうした遺伝子の影響に関する調査はこれまで、産業の発達した社会では行われてきたが、ヒトの遺伝子が進化してきた過程をより色濃く反映した生存環境で調査が行われたことはほとんどなかった。

 アイゼンバーグさんは、こうした対立遺伝子を持った遊牧民の少年は、家畜を守ったり食料や水を探し当てる上で力を発揮できる一方、学校に通ったり農業を営んだり、物を売ったりといった定住生活では成功しない可能性があるとしている。(c)AFP