【5月16日 AFP】第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で15日、「ある視点」部門に出品されたスティーヴ・マックィーン(Steve McQueen)監督の作品『Hunger』がプレミア上映された。

 アイルランド共和軍(IRA)の活動家ボビー・サンズ(Bobby Sands)が主人公の伝記映画。北アイルランドのメイズ刑務所で、サンズら活動家は政治犯としての権利の復帰を目指してハンガー・ストライキを実行し、サンズはその66日後に死亡する。映画は、看守たちの過酷な暴力、そしてサンズの身体がやせ衰えていく様子も刻々と描く。

 英国内では「テロリストの殉死を賞賛する映画」との批判が相次いでいるが、監督は「サンズを英雄とか殉教者扱いしているわけではない」と語る。「大人のとりすまされた世界で何が起こっていたかを人々に思い起こしてほしいと思って、この映画を作った。サンズの行いがいいか悪いか、わたしにはわからない。映画は、良い決定だろうが悪い決定だろうが何かを決定する人々、そしてその結果を描いている」

 その一方で、1981年に閉鎖されたメイズ刑務所で起きたことと、キューバのグアンタナモ(Guantanamo Bay)米軍基地収容所、イラクの旧アブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所で起こったことには共通点があると監督は言う。

 サンズは、北アイルランドの英国からの分離・アイルランドへの併合を求めるIRAの武装闘争に参加し、銃器所持の罪で逮捕・収監された。サンズらは獄中、政治犯としての権利を剥奪されたことに抗議して、衣服の洗濯の拒否、房内の壁に糞尿を塗りたくる「ダーティー・プロテスト」など、様々な抗議活動を展開。

「どんな場合でも、人は何か手元にあるものを使うものだ。この場合は、身体であり、糞尿であり、とにかく使えるものはそういうものに限られていた」とマックィーン監督。

 しかし、ときの首相、マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)が要求をのまないと知るや、今度はハンストに突入する。このニュースが報じられると、世界中で同情論が起こるとともにサンズの人気は高まり、英下院議員に選出されるほどだった。だが、やがて帰らぬ人となる。ハンストでサンズを含む10人が死亡したことを受け、IRAはテロ活動を活発化させた。

 1996年にサンズの自伝映画『Some Mother’s Son』がカンヌで上映された際も、賛否両論を呼んだ。

 マックィーン監督は、戦争画家としても知られ、1999年には現代美術アーティストに贈られるターナー賞(Turner Prize)を受賞している。最近では、イラク戦争で戦死した兵士の顔をプリントした切手のシリーズを製作して物議をかもした。(c)AFP/Rory Mulholland

カンヌ国際映画祭の公式ウェブサイト(英語)