【4月29日 AFP】多数の動植物を絶滅から救えず「生物多様性」が失われることになった場合、新世代の抗生物質の開発が行き詰まり感染症やガンの治療の未来が閉ざされることになるとの専門家の報告が、23日に発表された。報告は「Sustaining Life(持続される命)」という本にまとめられ、まもなく出版される。

 国連主催の「環境のためのビジネス会議」に出席した国連環境計画(United Nations Environment ProgrammeUNEP)のアヒム・シュタイナー(Achim Steiner)事務局長はこの日、「現在少なくとも1万6000種以上が絶滅の危機に瀕しており、生物多様性の損失は危険レベルに達している」との同著の主張を紹介。さらに、人類の健康が病気治療に供される動植物に依存してきたことを強調した。

 また、「19-20世紀の技術革新により化学物質を使用するようになった製薬メーカーも、今や限界を感じて自然界に再び目を向けようとしている」と付け加えた上で、「生物多様性を理解しないのは悲劇に値する。生物多様性が気候変動に影響していないと考えるのは大きな誤りだ」と力説した。

■「希少種」が人類の健康に貢献することも

 同著は、1980年代にオーストラリア南部の熱帯雨林で発見された「胃の中で子どもを育てる」カエルを例に挙げている。このカエルは、全米で2500万人の患者がいるとされる消化性潰瘍の治療予防研究に役立つ可能性があった。ところが、このカエルが絶滅してしまったために治療方法の発見という夢は「潰(つい)えてしまった」としている。

 この本は、「毒」を心臓病の治療薬や鎮痛剤に流用できる可能性のあるカエルや、進行したガンやエイズ(AIDS)患者への鎮痛剤としての有効性が臨床試験で確認されているカタツムリなども紹介している。

 著者の1人、カナダ人の科学者で環境保護活動家のデビッド・スズキ(David Suzuki)氏は、世界各国が経済発展を優先してきたことのツケを、環境が払わされていると主張する。「わたしたちは豊かになりつつあるという幻想を抱いているが、経済成長という名のもと、子孫を犠牲にして発展を遂げてきた。唯一の解決策は、経済から目をそむけること。あらゆる犠牲を払ってでも手に入れるべきは、きれいな空気、水、土壌、太陽エネルギー、そして生物多様性だ」(c)AFP/Martin Abbugao