【4月21日 AFP】米大統領選の民主党候補指名争いでヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員が、後半戦に入り猛撃するボクサーのように、ライバルのバラク・オバマ(Barack Obama)上院議員に対するジャブやパンチをいっそう強めている。しかし陣営の外では、クリントン候補の敗北は時間の問題とみる声が強まっている。

 疾走するクリントン候補は、いつもと変わらぬ笑顔を保ち、「オバマ候補に対する勝機は非常に薄い」と予測する専門家らの声を無視している。オバマ候補の失敗と思われる事柄は逐一逃さず攻撃し、15か月の選挙戦に終わりはないと言わんばかりか、永遠に続く民主主義の戦いは始まったばかりとでも言いたげな勢いだ。

「スローガンや売り文句につられて投票すれば、何に票を投じたのか分からなくなる」。クリントン候補は20日、残る予備選のひとつを2日後に控えるペンシルベニア(Pennsylvania)州で、民主党員が軽蔑するジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)現大統領にさえオバマ候補をなぞらえた。

■ペンシルベニア勝利でも劣勢変わらず

 世論調査によると、ペンシルベニアではクリントン候補が優勢との結果が出ているが、それでも圧勝は望めそうにない。周辺ではこの予備選後、クリントン候補は選挙戦撤退を宣言すべきだとの声もあがっている。大統領選はオバマ候補と共和党ジョン・マケイン(John McCain)氏の戦いとなるとすでに見越している陣営外部とは隔絶され、クリントン候補の側近たちは自分たちに都合の良い現実しか見ていないかのようだ。

 民主党の候補選出日程が残されている州は10州あるが、代議員枠はペンシルベニア州の158人が最高。ほかの州の枠は小さく、いかなる点からみてもクリントン候補は劣勢だ。

 一般の代議員数でリードしているオバマ候補は、資金面でもあらゆる重要局面でクリントン候補を抑え、結果ペンシルベニア州でもクリントン候補の3倍の広告費を注ぎ込むことができた。

■民主党候補選出は特別代議員の手へ

 州ごとの選出過程で割り当てられる一般の代議員数では、両候補とも当選に必要とされる2025人を獲得していないため、民主党候補選びの行方は、党幹部などからなる「特別代議員」に託されることとなる。しかし、この特別代議員たちもオバマ氏支持への傾きをみせており、クリントン陣営の士気をくじく一因となっている。オバマ候補の不調が続いたここ数週間はクリントン候補が若干浮上したものの、オバマ候補を打ちのめすにはほど遠かった。

 さらに痛手なのは、夫ビル・クリントン(Bill Clinton)前大統領の政権下で閣僚を務めたビル・リチャードソン(Bill Richardson)ニューメキシコ(New Mexico)州知事、ロバート・ライシュ(Robert Reich)元労働長官という2人の近親者が離反し、オバマ氏にくら替えしたことだ。

■攻撃強めるほど支持率低下

 しかし、クリントン候補が攻撃の手を強めれば強めるほど、支持率は下がる傾向を見せており、党内の数年間にわたる対立がクリントン氏の信頼を修復不可能なまでに損なってしまったのではないかとの見方もある。

 背後では常に、クリントン陣営の選挙戦術はあらだらけだ、あるいは党内にあつれきを生みやすいといった批判が渦巻き、また周辺にスキャンダルが多い、強気の政治で押しまくるのはないかとけん制する声も後を絶たない。

 世界でおそらく最も有名な女性であり、かつてホワイトハウスを「わが家」と呼んだ元大統領夫人であり、裕福な資産家であるクリントン氏は選挙戦中、各都市では支持基盤である労働者階級が待つ低所得層地域に常に足を運んでいるように見える。支持者たちの多くもまた、クリントン候補の敗北を認めたがらない。

 ペンシルベニア州ウエスト・チェスター(West Chester)で開かれた集会に、近隣のチャッズ・フォード(Chadds Ford)から参加したMarie Kunkleさんは、クリントン支持を絶対にやめないと誓う。「彼女が指名を獲得するわ」。支持者の声も、トム・ペティ(Tom Petty)氏の曲を使用した支援ソング「I Won't Back Down(わたしは後へ引かない)」そのものだ。

「オバマ氏はメディアには取り上げられているけれど、まだ選ばれたわけではない」と Kunkleさんは強調する。クリントン氏が負けたら、11月の大統領選では何も動く気はないという。

 友人のCarol Pavlovitchさんは、うなずきながらも風向きの変化を祈っている。「支持候補を表明している代議員だって、いつでも心変わりすることはありえるわ」と。(c)AFP/Stephen Collinson