【4月21日 AFP】カリブ海のフランス海外県マルティニク(Martinique)島出身の詩人で、仏語圏の黒人文学運動「ネグリチュード」を唱道したエメ・セゼール(Aime Cesaire)氏の国葬が20日、同島のスタジアムで行われた。葬儀にはニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領も出席し、数千人の列席者を前に弔辞を述べた。

 この日、島の各所に半旗が掲げられた。雨天にもかかわらず、参列者の多くが白い喪服を着用し、敬愛される文学者に追悼の意を表した。

 サルコジ大統領はセゼール氏を「人間の尊厳の不屈な擁護者」と称した上で、「われわれがこの詩人の人生から学んだ重要なことは、自由と尊厳への真の前進は『責任感』によってのみ実現される、ということだ」と語った。

 セゼール氏とサルコジ大統領の関係は、決して良好といえるものではなかった。2005年、内相だったサルコジ氏は、植民地時代におけるフランスの「肯定的な役割」に関する学校教育を奨励する法案を成立させようと奔走していたが、セゼール氏は当時、サルコジ氏からの面会要請を拒絶している。

 セゼール氏は「帰郷ノート(Cahier d’un retour au pays natal)」でデビュー。同じく詩人のレオポール・セダール・サンゴール(Leopold Sedar Senghor、セネガルの初代大統領)といった黒人文学者らとともに「黒人であることを肯定し、それを誇りとすること」を示す「ネグリチュード(黒人性)」という語を創出し同じ名称の運動をけん引、作品と政治活動を通じ植民地主義および人種差別に立ち向かった。

「ネグリチュード」という言葉を最初に使用したのは文学評論誌「黒人学生(L'Etudiant Noir)」の中で、南アフリカの黒人解放運動指導者スティーブ・ビコ (Steve Biko)や米国の公民権運動家マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King)牧師の登場に数十年先駆け、「黒人意識運動」の基盤を用意した。

 セザール氏の亡きがらについては、パリ(Paris)にある国民的功労者たちを弔う霊廟「パンテオン(Pantheon)」に埋葬すべきとの声が国会議員の間から上がったが、Yves Jego海外領土担当相から「セゼール氏はパンテオンに埋葬されることを良しとしないだろう」との意見があり、故郷のマルティニク島に埋葬されることになった。

 葬儀には、社会党幹部のセゴレーヌ・ロワイヤル(Segolene Royal)氏とフランソワ・オランド(Francois Hollande)氏、3人の元首相、ローラン・ファビウス(Laurent Fabius)氏、リオネル・ジョスパン(Lionel Jospin)氏、ピエール・モロワ(Pierre Mauroy)氏のほか、セネガルのマメ・ビラフ・ディウフ(Mame Biram Diouf)文化相やドミニカのルーズベルト・スカーリット(Roosevelt Skerrit)首相らも出席した。

 国葬は文学界においては1885年の作家ヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo)、1945年の詩人ポール・ヴァレリー(Paul Valery)、1954年の作家コレット(Colette)に次ぐ4人目となる。

 心臓疾患を患っていたセゼール氏は17日、同島のフォールドフランス(Fort-de-France)で亡くなった。94歳だった。(c)AFP/Dominique Chabrol