【3月25日 AFP】北極圏にあるノルウェー領スバルバル諸島(Svalbard)では、黒の背景に白いホッキョクグマを描いた標識が設置されており、危険な動物の存在をはっきりと思い起こさせる。

 北極点からわずか1000キロに位置し、ベルギーの2倍の面積を持つ同諸島には、ホッキョクグマ3000頭と人間2300人が暮らしている。両者は諸島の大部分の地域では、平和に共存している。

 もともと、人間はメキシコ湾流のおかげで温暖な西海岸に、ホッキョクグマは海氷が広がっているおかげでアザラシをとりやすい東海岸に暮らしており、両者はときどき出会う程度だった。

 主要都市のロングイェールビーン(Longyearbyen)には、街を離れる訪問者に対しライフルを所持するよう促す標識があるという。

 人里離れた場所で銃を持ち歩くことは必須だ。地元大学ではフィールド調査がカリキュラムに組み込まれており、全学生がライフルの撃ち方を学ぶことを義務付けられている。

 また、ロングイェールビーンから郊外へ向かう道路の2か所に、クマに注意を促す標識が設置されている。このような標識があるのは、世界でもここだけと考えられている。

■射殺もやむなし

 1970年以降、スバルバル諸島でのホッキョクグマによる死者数は4人にのぼっている。

 Liv-Rose Flygelさん(52)は、初めてホッキョクグマに遭遇したときのことをはっきりと覚えているという。11歳だったFlygelさんが父親の運転するスノーモービルの後ろに乗っていたときのことだ。年老いてやせたクマが後ろから追いかけてきたという。「25メートルくらい後ろにいた。本当に嫌な感じだった。父が脅して追い払おうとしたができず、とうとう殺さざるを得なかった」と当時を振り返る。

 北極圏の5か国にしか生息していないホッキョクグマは、ノルウェーでは1973年以降、保護種に指定されている。スノーモービルのエンジンを噴かしたりヘリコプターを使ったりして威嚇しても追い払えない場合にのみ、最後の手段として銃を使用する。1998年から2005年の間に射殺されたクマは24頭にのぼる。

 炭鉱で働くBjoern Fjukstadさん(59)は、クマを殺した数少ない人の1人だ。クリスマスイブの夜、Svea炭鉱の近くでのことだ。「セントバーナードくらいの大きさの若くておなかをすかせたクマが、われわれがいた建物に入ろうとした。威嚇射撃をして3回追い払ったが、それでも建物に入ろうとし続けた。殺さざるを得なかった」とFjukstadさん。「いつでもクマのメニューに載っていることを肝に銘じておかなければならない」

 過去数十年で、クマは徐々に人間が住む地域に入ってきている。そり犬の餌にするために屋外にぶら下げてあるアザラシのにおいに誘われて来るのだ。

 一方、気候変動は、普段クマが餌とするアザラシをとる場所の氷が後退し、文字通り彼らの足の下で解けていることを意味する。

「人間は工業活動や汚染により、ホッキョクグマ絶滅への過程に関与している。危険なのはクマではなく、わたしたちだ。クマの標識を『クマの骨』の標識に変えずに済めばいいけれど」とFlygelさんは語る。(c)AFP/Pierre-Henry Deshayes