【3月16日 AFP】北京五輪開催によって近代国家としての世界デビューを印象づけ、国際社会からの尊敬、さらには称賛さえも集めたいと夢描いていた中国の指導者たちは、それとはまったく逆に自国宣伝活動の悪夢に直面している。チベット(Tibet)自治区の区都ラサ(Lasa)で前週発生した暴動に対する中国政府の弾圧は、同国内の人権侵害などに対する国際社会の圧力をいっそう招いており、五輪開催国としての栄誉を失墜させかねない。

 共産党指導部は非常に立場の悪い状況に追い込まれていると中国専門家らは分析する。パリ(Paris)にある仏国際問題研究所(Centre for International Research)の中国研究者Jean Philippe Beja氏は、軍を出動させざるをえない事態に発展したラサ暴動で死者まで出ている点について、「中国政府にとって想定しえた中でも最悪の事態。中国、チベット双方の指導者、どちらも損をする状況に陥っている」という。

■国際的アピールと国内統治で揺らぐ政治的バランス

 五輪開幕まで5か月。中国政府は今、政治的なバランスの上で自らがぐらつくさまを目の当たりにしている、と観測筋や反政府活動家らは指摘する。

 チベット問題以外にも、イスラム教徒の多い新疆(Xinjiang)ウイグル自治区に対する厳格な統治、言論や宗教の自由に対する制限、ダルフール(Darfur)紛争への責任が問われるスーダン政府への支援など中国政府に向けられた批判は多い。

 12月には人権活動家の胡佳(Hu Jia)氏が逮捕され、人権団体らは政府批判を行う者に対する弾圧だと非難した。また「五輪より人権を」と訴えた署名で1万筆を集めた工場労働者の楊春林(Yang Chunlin)さんも罪を問われ、判決を待っている状態だ。

 こうした批判に直面する中国政府にとって、チベット暴動は落とし穴となる可能性をはらんでいると専門家はみる。政府批判に対し強圧的に反応すれば国際的な非難を招きかねず、一方で強硬姿勢を緩めれば反体制派を活気づけかねないからだ。
 
「中国政府は、何もしなければ状況を悪化させるリスクがあるので反応しないわけにもいかず、暴力的に対処して一斉逮捕し、群集に発砲するわけにもいかず、その間の方法をとらざるをえない」と、フランス国際関係研究所(French Institute of International RelationsIFRI)のバレリー・ニケ(Valerie Niquet)氏はAFPの取材に語った。「興味深いことは、緊張を好まない現政権下で強い緊張が起こっている点だ」

■チベット暴動の対処ひとつで五輪以上のダメージ

 北京在住の反体制評論家、劉暁波(Liu Xiaobo)氏は、チベット暴動への対応を政府が誤れば、中国のイメージと五輪の成功に非常に深刻な影響がもたらされると指摘する。「チベットの状況がさらに大規模な流血を招く事態になれば、五輪への影響は大きく、さらにはより大きな国際的非難も招くだろう」

 政府がチベット住民の抗議に耳を貸し、亡命しているチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ(Dalai Lama)14世との対話を開始し、さらに批判する者たちへの締め付けを弱めれば、緊張は容易に解消できるという見方もある。

 しかし、中国政府としては、そうした反応は五輪成功へのダメージを上回る「長期的リスク」も招きかねないと見るだろうと、米国のチベット支援団体「チベットのための国際キャンペーン(International Campaign for TibetICT)」のケイト・サンダース(Kate Saunders)氏は分析する。同氏は「チベット住民の懸念に中国政府が対処しうる歴史的瞬間がそこにありながら、中国指導部が本気で取り組むことは最もありえないだろう」とし、むしろいつもながらの厳しい弾圧が起こりうると予測する。

■経済的利得優先で反応鈍い各国政府

 各国政府や国際五輪委員会(International Olympic CommitteeIOC)が何らかの強い圧力をかければ、中国政府のジレンマはますます悪化する。しかし、経済的に強力な中国に対し、その水を差すような反応を見せて恨まれる可能性を懸念して、各国政府の反応はぬるいと観測筋はいう。

 スイスに拠点を置くチベット専門家で作家のClaude Levenson氏は「不運なことに、世界の指導者たちも戸惑っているため、中国政府はチベットにさらなる弾圧を加えることさえできると思う」という。

 次週、著名な人権活動家の胡佳氏が公判に付される見込みだが、これも中国政府が試される場となりうる。しかし、反体制派の劉氏は、中国政府は胡氏に対する罪を軽くするなど、数週間以内に巧みな「点数稼ぎ」を行うにちがいないと予測する。劉氏によると、
胡氏はそうした政治的駆け引きに利用されている一例に過ぎない。「中国はこうして機敏に対処し、今後も世界の圧力をかわしていくのではないか」と劉氏は述べた。(c)AFP/Dan Martin