【3月10日 AFP】ベストセラーになった自伝本が相次いで「ねつ造」であることが判明し、出版界に衝撃が走っている。だが、自伝における事実のでっち上げは今に始まったものではない。

 4日のニューヨークタイムズ(New York Times)は、白人とネイティブの混血女性の壮絶な半生を描いた自伝『Love and Consequences』が全くの作り話であると報じた。

 作者はロサンゼルスの貧民街で養父母に育てられたということになっているが、実際はカリフォルニアの裕福な家庭に生まれ、本で書かれているようなドラッグやギャングの抗争とは無縁の生活を送っていたのだ。ちなみに作者のMargaret Jonesというのも偽名で、実際の作者は33歳の白人女性だという。

 出版元のRiverhead Booksは、ただちに出版を中止して希望する購入者には全額返金すると発表している。発売当初、ニューヨークタイムズの書評は、同書を絶賛し、作者のプロフィールも掲載していた。

 同じ時期、欧州でも同様の騒動が持ち上がっていた。第2次世界大戦中のベルギーで、両親をナチス(Nazis)に連行されオオカミに育てられたという実話を元にした物語『少女ミーシャの旅(Born with Wolves)』の著者ミーシャ・デフォンスカ(Misha Defonseca)氏(本名:モニク・ド・ワエル(Monique de Wael))が前月末、実話ではなくフィクションだったと認めたのだ。さらに、自分はユダヤ人ではないことも明らかにした。同書はベストセラーになり、映画化もされている。

 出版元のエディターは「実話だと言って読者をだました」と憤るが、こうした例は実は枚挙に暇が無い。とりわけ、ナチスやホロコーストを題材にしたものに作り話は多いという。

 1983年に出版された『ヒトラー日記(Hitler Diaries)』は、出版元の独Heidemannによる作り話であることが判明。関係者が禁固42か月の判決を受けた。

 また、オーストラリアの作家ヘレン・デミデンコ(Helen Demidenko)はデビュー作『署名した手(The Hand that Signed the Paper)』で、ナチス親衛隊(Waffen SS)の元隊員でオーストラリアに避難したというウクライナ人の父と叔父の生涯を描いているが、作者はのちにオーストラリアのコラムニストJamie Darville氏であることが判明。そして同氏の両親は英国から移住していた事実も明らかになった。

 先のミーシャ・デフォンスカ氏は、ベルギーの日刊紙「ルソワール(Le Soir)」に対し、両親がブリュッセル(Brussels)でナチスに連行されたのは本当だと語っている。「実話ではないにせよ、わたしにとっての真実、わたしがどのように生き延びたかが記されているのです」

 2006年に文学のねつ造に関する本を執筆したPhilippe Di Folco氏は、次のように分析する。「需要があるから詐欺本は売れる。読者は、時にはだまされたいと思うものではありませんか」(c)AFP