【3月8日 AFP】中国の首都・北京(Beijing)市内で今月6日夜、北京市華一法律事務所(Beijing Huayi Law Firm)の滕彪(Teng Biao)弁護士(34)が自宅前で何者かに車で連れ去られた。同弁護士は人権活動に力を入れていたため、友人の弁護士や人権保護団体などが8日、北京五輪を控えた取り締まりのため公安当局に連れ去れた可能性があると訴えたが、滕彪弁護士は同日、無事に解放された。滕彪弁護士は、「連れ去った人物は、身分証明書などを提示しなかったが、北京市公安局に所属していると話していた」と証言している。

 滕彪弁護士は6日夜、妻や近所の住民、住宅地の警備員らの目前で、ナンバープレートを付けていない黒い車に無理矢理押し込められ、連れ去れた。妻の王玲(Wang Ling)さんはすぐに地元の警察へ通報したが、捜査状況の開示を拒否されたという。

 滕彪弁護士の同僚は、北京市内で誘拐事件が起こることは滅多になく、許し難い事件だと述べ、警察当局に対し、直ちに捜査するよう要求した。

 しかし、北京五輪を控えて警備が厳しくなっている北京市内で、誘拐事件が起こるのは不自然だとの見方が浮上。中国の人権問題に関する批判を抑えるため、公安当局の行為ではないかとの憶測が広がっていた。

 王玲さんも、「全国人民代表大会(全人代=国会)が開幕中で、誰もが市内は安全だと思っていた時期の出来事で、理解できない」と話していたほか、公安当局による拘束時にはナンバープレートのない黒い車が使われることから、当局による連行が強く疑われていた。

 滕彪弁護士は2007年に、人権活動でフランス大統領賞(French Presidential Award)を受賞しているほか、昨年12月に政権転覆扇動容疑で逮捕された中国の人権活動家・胡佳(Hu Jia)氏とも親しかった。

 無事に解放された滕彪弁護士によると、公安当局は同弁護士が近ごろ執筆した市民の権利を訴える記事と、胡佳氏と連名で政府にあてた公開書簡が、拘束理由だと説明。「国外の報道陣には、何も伝えてはならないと言い渡された。具体的に、どんなことを言われたのかは、明らかにできない。かなりの圧力があった。わたしを黙らせる法はなく、単なる脅迫だ」と話している。

 滕彪弁護士が連れ去られた後、ニューヨークに本部を置く中国の人権団体・中国人権(Human Rights in China)のシャロン・ホム(Sharon Hom)所長は、「弁護士は、最低でも自身や家族の安全を脅かされることなく、独立して機能しなければならない。この誘拐は、脅迫であり嫌がらせで、中国における人権活動家にとって、身の安全に深刻な不安を与える政治的な事件だ」と話していた。(c)AFP