【3月5日 AFP】イラクの旧アブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所におけるイラク人被収容者虐待事件について、同刑務所の「環境」が善良な兵士を邪悪な拷問者に変えたことにより事件が引き起こされたとする研究が、2月28日開催の全地球的な問題に取り組むTED(Technology, Entertainment and Design)会議で報告された。

 スタンフォード大学(Stanford University)のPhilip Zimbardo教授(社会心理学)は同会議で、最近発売された自著のタイトルにもなった「The Lucifer Effect(悪魔の効果)」なるものを説明した。

 それによると、その人が親切になるか残酷になるか、はたまた英雄になるかは、その人の人格よりは「環境」次第だと言う。たとえば、権力を手にした上に監視されていないという状態は、虐待の温床になる。

 これは大学で行った実験でも立証されているという。実験は1971年の夏休み中に、キャンパスの地下室を刑務所に見立て、学生に看守または収容者になりきってもらうという形で行われた。やがて看守役の学生は加虐的に、収容者役の学生はおびえるようになり、実験を早めに切り上げざるをえなくなったという。

 実際、アブグレイブ刑務所では、虐待が監視されるどころか故意に3か月間続けられていたという。

 アブグレイブ刑務所を視察したことがあるという教授は、虐待の様子を示す一連の写真を見て「ショックだったが、驚きはしなかった」と話し、「権力は個人にではなく、システム自体にある。(拷問は)一部の腐ったリンゴがやったのではなく、(リンゴを入れておく)樽を作った職人の腕が悪かったということ。良いリンゴを摘んだが悪い環境に置いてしまったとも言える」と説明した。

 虐待をやめるよう意見した「英雄」は階級の低い一兵卒だったと同教授は語った。そして最後に「ヒロイズムは邪悪の解毒剤。悲しくも米国政府が軽視している公正と平和に目を向けようではありませんか」としめくくった。(c)AFP/Glenn Chapman