【1月23日 AFP】ノルウェー北部のトロムソ(Tromsoe)で1週間の日程で、北極圏の環境問題に関する会議が開催されている。自然資源の埋蔵量が豊富な北極地方の開発について、北極域の先住民代表らは環境的犠牲を懸念する一方で、自分たちも利益配分を受けるに値すると実利的な主張を展開した。

 ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのスカンディナビア半島からロシアにかけて住む北極圏の先住民、サーミ人による「サーミ評議会(Sami Council)」のGeir Tommy Pedersen代表は「この問題は石油企業の課題だ」と述べた。「われわれは開発を止めることはできない。しかし、利益の一部をほしいと思うし、資源開発において何らかの役割を果たしたい」(Pedersen氏)

■石油・天然ガス埋蔵量の1/4が眠る北極圏

 推計によると、北極圏には世界の未発見の石油、天然ガスの約四分の一が埋蔵しているとみられている。極地の氷冠の溶解が続いている中、眠っている資源はますます入手しやすくなっている。Pedersen代表は「われわれにとって適切な決断が下されるよう、政策決定者に助言する機会がほしい」という。

International Centre for Reindeer Husbandry(国際トナカイ飼育センター)」のAnders Oskal代表は、北極圏での人間の活動が拡大するにつれトナカイや遊牧民の生活が挑戦にさらされるが、石油やガスの開発は「起こりうることの中で最悪のことではない。(逆にこうした産業は)たいへん収益性があり、少なくとも先住民社会にも前向きな発展をもたらす機会を提供する」と述べ、先住民居住地域の医療保障や学校教育、社会サービスの向上に期待を向けた。同氏は「文明社会とつながりを持たずにツンドラ地方に住むということは、多くの場合、とても厳しい生活を意味する」と指摘する。

 北極評議会(Arctic Council)によると、カナダ領からデンマーク、ノルウェー、ロシア、米国領にまたがる北極圏には約200万から400万人が住んでおり、20前後の先住民団体が存在する。

 前述のOskal氏は、現在この地域でエネルギー資源の開発を行う政府や企業にとって、地元のノウハウは非常に貴重なはずだとアピールする。Pedersen氏も「能力のあるわれわれに相談すべきだ」と同意し、先住民を「観光客向けのエキゾチックなもののように」扱うことは止めるべきだと強調する。

 イヌイット北極圏評議会(Inuit Circumpolar Council)のPatricia Cochran代表は「われわれは意思決定の過程に参加する必要がある」と、より積極的な関わりを求めるとともに、事故などが発生した際も先住民のほうが対処に慣れているので支援できると指摘する。

■先住民会議は開発に前向き、WWFが生態系に警告

 会議に参加した先住民の代表たちが北極圏に訪れつつある変化への適応性を強調する一方で、誤った開発の可能性に対する深い懸念も表明された。

 イヌイット評議会のCochran氏は「北極圏の石油・ガス開発が及ぼす長期的影響を非常に心配している。大量の石油流出を恐れている」という。北極付近の温度は氷点下のため、いったん流出が起これば通常よりも処理が困難で、油で汚染された生物が低体温で死亡すると予測されている。

 長年手つかずの自然が残っていた地域に建設された道路などのインフラにより、すでに生態系は乱されている。科学者たちの報告では、道路およびパイプラインの敷設によってカリブーやトナカイの群れが通るルートが変わるなど、野生動物にも影響が出ている。

 世界自然保護基金(World Wildlife FundWWF)は22日、石油採掘は北極圏の壊れやすい生態系に取り返しのつかないダメージを与えかねないとして、北極圏における新たな石油採掘の一時停止を要請した。

 しかし、先住民コミュニティの代表らはこの要請を拒み、現在の生活様式の一部でも保護されることを期待しながら、石油開発における意思決定の側につくことを一貫して主張した。Oskal氏は「われわれに必要なのは状況を現実的に判断すること。北極圏で石油やガスの採掘をさせないというのは、現実的ではない」。Cochran氏も「われわれは現実世界の中に住んでいる」と同意する。またイヌイットたちは「石油がまだ流れているうちに、地元分の利益を取り分けたい」という考えだという。「われわれは開発の犠牲者としてこの問題を見ているのではない。彼らとともに進みたいのだ」(c)AFP/Delphine Touitou