【1月21日 AFP】8月8日の開幕を目指し急ピッチで工事の進む北京五輪のメインスタジアム、北京国家体育場(Beijing National Stadium)の建設現場で、これまでに少なくとも10人の作業員が事故死していた事実を中国当局が隠ぺいしていた。20日の英サンデー・タイムズ(Sunday Times)紙が報じた。この報道に対し北京五輪組織委員会(Beijing Organising Committee of the Olympic GamesBOCOG)は21日、事実ではないとして否定した。

 同紙によると、中国当局は亡くなった作業員の遺族らを異例に高額の補償金により、実質的に買収していたという。補償金の額は1人1万3000ポンド(約270万円)程度にも及んでいたという。現地での賃金相場は、未熟練の労働者の日当が3英ポンド(約600円)、熟練の溶接工でも日当4ポンド(約830円)を超える程度。

 報道では問題の原因は野心的な大規模プロジェクトにあるという。スタジアムのデザインは最終的に「鳥の巣」のようなボール状になる予定だが、工事は作業員が目まいを引き起こすほどの高所における作業だという。

 しかしプロジェクトに関わる英国の建設企業Arupは「悲しいことではあるが、工事中の死亡事故の原因はさまざまで、デザインには一切関係ない」と同紙に語った。

 同紙は事故の目撃談として、溶接工として1年以上働く甘粛(Gansu)省出身の25歳の作業員の話を引用している。「2006年末のある日は凍るほど寒く、『鳥の巣』の頂上には氷が見えるほどだった。私は地上にいたが、頂上で溶接しているほうがよいと思っていたとき、恐ろしい叫び声が聞こえた。何が起こったか考える前に地面に何かが落ちた音がした。『巣』のてっぺんから誰かが落ちたのだと分かったが、ランニングトラックの真ん中にある砂の山には人影は見えなかった。監督員が作業員に砂山をシャベルで掘るように命じ、30分ほどすると中から死体が出てきた。血まみれで見るに耐えなかった」

 遺体はすぐに運び去られ、その場にいた作業員は全員、事故について口外しないよう命じられたという。

 北京五輪組織委員会広報官はこの報道について「第1に、サンデー・タイムズの記事は事実ではない。第2に、北京市および北京五輪組織委員会は、五輪施設建設での安全性を重視し、安全確保、品質管理、スケジュール管理のために確固たる対策を講じてきた」として反論した。北京国家体育場の建設は「適切な安全基準に基づき計画通り進められている」という。

 2004年のアテネ五輪の際にはスタジアム建設中に作業員5人が亡くなったという。2000年のシドニー五輪関連の事故死は1人、1996のアトランタ五輪のスタジアム建設では溶接工1人が亡くなっている。(c)AFP