【1月18日 AFP】30年以上にわたり「歌詞のない国歌」だったスペイン国歌をめぐって、同国内がもめている。

 発端は10日、スペイン五輪委員会(Spanish Olympic Committee)が昨年6月に招集した有識者会議が、約7000件の公募の中から新しい歌詞の案として4作品を選出したこと。昨年6月に招集されたこの会議は音楽学者、歴史学者、作詞家、弁護士、作曲家、2回の五輪優勝歴のある女子ヨット選手テレサ・ザベル(Theresa Zabell)の6人で構成されている。

 当初、五輪委員会は21日にマドリード(Madrid)で歌詞案の発表式典を行い、3大テノールの1人で同国出身のプラシド・ドミンゴ(Placido Domingo)氏の歌で披露する予定だった。ところが正式発表を前に歌詞案が流出、11日の地元日刊紙ABCに掲載されたことから、論議が巻き起こった。

 五輪委員会のアレハンドロ・ブランコ(Alejandro Blanco)委員長は16日、「論争の原因となり多くの批判を受けた」として、歌詞案の取り下げと発表式典の延期を発表した。歌詞を作成する方針に変更はないとしている。

■「ハミングか空を仰いで」きたスペイン代表選手たち

 スペイン国歌の旋律は18世紀の軍楽曲「ロイヤル・マーチ(Royal March)」で、1770年にカルロス3世(King Carlos III)が王室の出席する行事での演奏を命じて以降、スペイン国民はこれを国歌とみなしてきた。

 しかし、歌詞は専制政治を敷いた独裁者フランコ将軍(General Francisco Franco)が後に付け加えたもので、公式な歌詞とみなされたことがない上、1975年のフランコ独裁の終焉とともに再び取り払われた。

 以来、スペイン国歌には歌詞はなく、国際スポーツ大会などでスペイン代表の選手たちは国歌が流れる間、ハミングをするか空を仰ぐなどしてきた。

■「古臭い」「分裂招く歌詞ないほうがまし」と批判の嵐

 11日付ABC紙に掲載された歌詞案は、「スペインよ永遠なれ/われわれは皆でともに歌う/澄んだ声で/心ひとつに」と始まり、最後は「正義と偉大さ/民主主義と平和」で終わる。

 この歌詞について、改造前の社会党サパテロ政権で文化相だったカルメン・カルボ(Carmen Calvo)氏は、「古臭く、ありきたりで、過去のどこかの国歌の歌詞を写したよう」だと批判、「まったく気に入らない」と切って捨てた。
 
 左派連合会派「統一左翼(Izquierda UnidaIU)」のガスパル・リャマサレス(Gaspar Llamazares)代表も、「陳腐だ」と一蹴。「分裂を引き起こす」歌詞を付けるくらいなら、歌詞なしのままのほうがましだと述べた。

■副首相も五輪委員会での歌詞選定に消極的

 マリア・テレサ・フェルナンデス・デラベガ(Maria Teresa Fernandez de la Vega)第1副首相も、11日の閣議後、「国歌というのは全国民を代表するものであり、スポーツ大会でのみ演奏されるものではない」と発言。「国内すべての行事で演奏されるのだから、もっと広く意見を募る必要がある。歌詞を付けるかどうかの議論を行い、歌詞案を承認するのにふさわしい場所は、国民主権の場である議会だと思う」と記者団に語った。

 五輪委員会が歌詞案を提案した場合、公式に採択するためには50万人分の署名を集め、さらに議会の承認を受ける必要がある。(c)AFP