【1月14日 AFP】地球温暖化により南極の氷床の溶ける速度が、過去10年で75%加速しているとの研究結果が、英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)」(電子版)に発表された。

 研究によると、2006年には南極周辺で推計1920億トンの氷床が氷河によって海に押し出された。一方、世界最大の東南極(East Antarctic)の氷床はほとんど融解していないという。

■失われた氷床は10年で75%増加

 研究チームは米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)のエリック・リグノット(Eric Rignot )氏が率い、5か国から研究者が参加した。

 チームは欧州宇宙機関(European Space AgencyESA)の2衛星と、日本、カナダの計4衛星のレーダー干渉計を用い、南極外周の状態の約85%を把握し、南極の岩盤を覆っている氷床から氷河が海に向かって氷を押し出す速度の測定を試みた。その結果、「調査期間の全体を通じ、概して氷床は明らかに質量を失っている。失った質量はここ10年で75%増加している」ことが分かったという。

 AFPの換算では、失ったとされる1920億トンという量は、ナイル川(River Nile)の年間流量の倍以上に相当する。蒸発や降雨を考慮しなければ、地球の海面を年間約0.5ミリ上昇させる量にも相当する。

 国連(UN)の気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate ChangeIPCC)は前年、1900年から2006年の間に海面が10-20センチ上昇したとの報告を発表した。

 またIPCCでは、水が温まるときに膨張する「熱膨張」が主な原因で、2100年までには海面が少なくともさらに18センチ上昇すると予測しているが、南極とグリーンランドの氷融解量が不明確なため、最大海面上昇量の予測は発表していない。

 今回の研究によると、蓄えられたこれらの大量の海氷がとどまるか溶け出すかは、氷河が決定要因となるようだ。

 英国南極調査所(British Antarctic SurveyBAS)のDavid Vaughan教授は長年、疑問を解こうと議論を重ねた結果、南極が海面上昇の鍵を握る要因となっているとのコンセンサスが形成されつつあるという。

 世界の淡水の約70%は南極に蓄えられている。南極やグリーンランドの氷床が失われれば、海面が何メートルも上昇する状態に拍車が掛かり、多くの人が住むデルタ地帯や低海抜諸国が海面下に沈み、危険な暴風雨が増加するだろう。ただしこれはIPCCもいまだ予想していない「世界最後の日」のシナリオだ。(c)AFP/Richard Ingham