【1月14日 AFP】チェコ国籍の33歳の女が、盗んだ個人情報を利用して13歳の少年や少女になりすまし、欧州各国の当局を欺いていた疑いで拘束され、同国の世論を驚かしている。

 ノルウェーから9日に強制送還された後、個人情報窃盗容疑で拘束されたのはBarbora Skrlova容疑者。驚くべき演技力を持つ犯罪者なのか、精神疾患に悩む患者なのか、精神鑑定医らが童顔の同容疑者から何らかの答えを引き出そうと試みている。

■学校も福祉施設も気づかず4か月

 チェコのメディアでは、8か月に及んだ「なりすまし事件」について一斉報道を続けている。ある番組ではカルト的人気のテレビドラマ「X-ファイル(X-Files)」のテーマソングを流しながら事件を紹介した。

 11日の日刊紙「Dnes」によると、他人へのなりすましの動機について「宗教的動機かポルノビジネスか、生い立ちの問題か『誰かに操作された説明のつかない動機か』」警察も迷っており、最後に「このどれもが当てはまるかも知れないし、どれも当てはまらないかもしれない」と記した。

 最近の「別人格」では、Skrlova容疑者はノルウェーの首都オスロ(Oslo)に住み、頭髪をそり胸部を包帯で巻き上げて13歳の少年「アダム」になりきっていた。オスロでは学校にも通い、教師や福祉施設の職員たちも気づかず、1月5日に警察が身分詐称を発見してチェコに送還するまで、4か月間だまし通したという。

 昨年6月にはやはり13歳の少女「アンナ」になりすまし、チェコ当局が追跡した揚げ句の果てにコペンハーゲン(Copenhagen)に舞い戻り、捜査陣は右往左往させられた。

■偽の人格作り、宗教団体を演劇関係者が支援?

 日刊紙「Pravo」は「Skrlova容疑者にとって、偽の子どもの人格を演じなければならないという特殊な必要性は、自分の子ども時代に原因があるのだろう」と推測する。心理学者や精神科医らは、同容疑者の行動が精神疾患の結果なのか、そうだとすればどの程度の症状なのか、また根本的原因は何なのかなどを診断する「容易ではない仕事」に直面している。

 同容疑者の信じがたい「身元詐称」が明らかになったのは2007年5月、チェコ東部の町Kurimの何の変哲もない一軒家で、箱のような部屋から監禁されていた8歳の男児Ondrej君が発見されたことがきっかけだった。少年の母親と叔母は、肉体的試練を通じて完全服従を示すことを要求するカルト宗教Grail Foundationの分派に所属していたとみられ、児童虐待の罪で逮捕された。

 このとき、Skrlova容疑者は重要証人とされた。この宗教集団は「The Ants(アリたち)」と名乗る見せかけの勧誘団体を利用して信者を誘い込んでおり、この団体の指導者はSkrlova容疑者の父だった。Skrlova容疑者を同団体の「女神」にする予定だったという。

 メンバーの多くは演劇界とつながりがあり、「偽の人格」作りに手を貸していたという。メンバーの中のある俳優は、自分の娘をSkrlova容疑者も演じたことのある「アンナ」になりきらせ、チェコの社会サービス当局をだましたことがあるほか、脚本家を職業とするメンバーは、Skrlova容疑者がノルウェーで拘束された時の人格は「息子アダムの人格を貸した」と述べている。ノルウェー警察によると、本物の少年がチェコで「完全な警備の下」生活している間、Skrlova容疑者はその少年の父親と共に、少年の「偽物」としてオスロで暮らしていた。

■虐待の疑いから身分詐称を発見

 オスロで偽のアダム少年であるSkrlova容疑者が通っていた学校の教師は、「彼は誰とも話さなかった。みんな彼はガンだと思っていた」と放送局Novaに語った。また「アダム少年」は顔色が悪く、体育の授業は頻繁に休んでいたという。そのため「虐待を受けているのではないか」との疑いが持ち上がり「父親」は拘束され、偽のアダム少年だけが家に取り残されたが、「少年」は12月中旬にチェコの電話相談に奇妙な通話を残し、蒸発した。

 ノルウェー警察が追跡を開始し、写真を公開して情報を求めたところ、偽のアダム少年を発見した。そこで発覚した事実は「実際に居なくなっていたのは13歳の少年ではなく、その少年だと身元を偽った33歳の女性だった」とオスロ警察は10日、簡潔な声明を発表した。

 なぜアダム少年の両親がこうした身分詐称に協力し、偽の少年を自分たちの息子であるとしてノルウェー当局に主張したかについて、同警察ではつかめていない。

 チェコ警察は現在、Skrlova容疑者がなぜ最初に、ドラッグ中毒の両親に捨てられたという設定の少女「アンナ」を演じたのか、理由を見いだそうとしている。カルト集団の家で監禁されていたOndrej君と11歳の弟の証言から、Skrlova容疑者も同じく虐待されていた疑いがあるという。

 昨年コペンハーゲンに一時的に姿を現した時、同容疑者は「少女のアンナと自分の2つの人生があることに、わたしは何の問題も感じない」と述べている。

 ひとつだけ今のところ確かなことは、DNAテストの結果、ノルウェーから9日に強制送還された少年アダムは、正真正銘33歳の女性のBarbora Skrlova容疑者だったということだ。(c)AFP/Sophie Pons