【11月29日 AFP】ヒトの皮膚から人工多能性幹(induced Pluripotent Stem、iPS)細胞の作製に成功した山中伸弥(Shinya Yamanaka)京都大教授は、今回開発した技術の実用化には時間がかかるため、倫理的問題を伴う胚(はい)細胞を用いた研究も継続されるべきだという見解を示した。

 前週発表されたこの画期的な発見は、作製に受精卵を用いる胚性幹細胞(ES細胞)研究に異論を唱えていたジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領やローマ法王庁らからも支持を得た。

 画期的な成果でゴールが見えたと報道されていることについて山中教授は「確かにゴールは見えた。しかし、ゴールははるかかなたにやっと見える、という状況」と話す。

 米ウィスコンシン大(University of Wisconsin)と山中教授率いる研究チームはそれぞれ同時期に、ヒトの皮膚細胞からES細胞と同様にさまざまな組織や器官に成長できる人工多能性幹細胞を作製。将来的には、患者の遺伝子情報から幹細胞を作り、移植された組織や器官が拒絶反応を起こす危険を回避できると期待されている。

 山中教授の研究チームは前年、4種類の異なる遺伝子をマウスの皮膚細胞に注入し、世界初のiPS細胞の作成に成功、今回ヒトの皮膚細胞にも同じ遺伝子を注入しiPS細胞の作成に成功した。ただ、この方法は発がん性のレトロウイルスを使用しているため発がんの危険性もあるほか、組み込んだ遺伝子の1つはガン遺伝子であるという問題がある。

 ES細胞は、さまざまな器官や神経に成長できることから、がんや糖尿病などの治療法発見に役立つとみられている。しかし、宗教的な観点から保守派は、ヒトの成長の最も初期の段階である胚細胞を破壊することは、生命の破壊と同じことだと非難している。

米国では、ブッシュ大統領が議会からの反発を受け、ヒトの幹細胞の研究への資金援助を停止した。規制前に集められた胚細胞の研究については、まだ資金援助が認められている。

 一方、米国に次いで多くの資金を研究に投資している日本では、胚細胞研究への規制は少ない。ただ、すべての研究には、生命倫理に関する政府の諮問機関の認可が必要で、クローン人間の作製は禁止。また、多くの女性が、卵子の提供を拒んでいるのが実情だ。

 山中教授は今後の研究について、「従来のES細胞の研究も並行して続けなければならないだろう。サルでの安全性を確かめるだけでも、最低でも1年はかかるでしょうから」と指摘した上で、「まず、発がんのリスクを含め、今回の研究でできた細胞の安全性を確かめなければならない」と話している。 (c)AFP