【11月19日 AFP】「フラマン(Flemish)の町Dilbeekへようこそ」。こんな看板が文化センターに掲げられているブリュッセル(Brussels)郊外の小さな町Dilbeekでは、フラマン(フランドル)語(ベルギー・フランドル地方で話されているオランダ語)ではなくフランス語を母国語とするベルギー国民が憤りをあらわにしている。

 フランス語圏とオランダ語圏の真ん中に位置する人口4万人のDilbeekでは、同国史上もっとも根強い政治的危機の縮図をかいま見ることができる。

■フランス語話者は「外国人扱い」

 フランス語を共通言語とする唯一の政党に所属するMichel Dandoy氏は、「われわれはベルギー国民であって、フランドル地方を訪問中の外国人ではない。二流市民の扱いを受けるとは信じられない。(仏語の)団体は助成金を与えられず、市議会の敷地内で会合も開けない」と憤る。

 この小さな町は、言葉の壁で分断されたベルギーの政治危機の中心地になりつつある。ベルギーは10月30日、もっとも長い間新しい連立政権を発足していない国として新記録を樹立した。

 フランス語を話す政治家の選出など、フランドル地方でのフランス語派の権利の主張は二つの派閥間の緊張を高めており、6月10日の総選挙から5か月たった現在も連立政権の樹立が合意に達していない。

■近所づきあい困難に

 Dilbeekで全体のわずか15-25%を占める仏語派は、オランダ語を話す隣人とほとんど接触しないという。

 1960年代からDilbeekに居住しフランス語を話すJean Paulisさん(76)は、「ほとんど交流はないよ。もし分かっていたらこんな土地は買わなかった」と語る。

 40年以上ここに住むPaulisさんはフラマン語を話す友人もおらず、オランダ語を話さない妻はフランス語が主流のブリュッセルで買い物をすることを好むという。

 さらにPaulisさんは、オランダ語以外の言葉を話すことを拒否する公務員や、学校の敷地内でフランス語を禁じるフラマン系学校を非難した。

 一方、仏ユグノー派の血を引くStefaan Platteau町長は、このような苦情を訴えるのは「交流することを拒絶し、オランダ語を学ぶ気もない」少数派のみだと述べ、「パリに引っ越したとすれば、私だってフランス語を勉強する」と一蹴している。

■市民権得たフラマン語

 かつてはフランス語が政治家たちの主流の言語だったが、第2次世界大戦以降、北部がフランス語圏の南部ワロン地域より豊かになると、フラマン語が徐々に市民権を獲得するようになった。さらに、6月10日の選挙では、フラマン語派の政治家らが経済政策における権限の拡大を要求した。

 政治危機が表面化する一方で、将来的な国の分裂の可能性を恐れる国民の愛国心も高まっている。

 特にブリュッセルでは、窓やベランダに飾られた黒・黄・赤のベルギー国旗の数が増加している。

 ベルギー国旗を生産するWollux社のGregory Lerooさんは、「需要があるのはフラマンの旗でもワロンの旗でもない、ベルギー国旗なんだよ」と述べた。(c)AFP