【11月6日 AFP】フランスの援助団体「ゾエの箱舟(Arche de Zoe)」がチャドからフランスに連れ出そうとするところを保護された子どもたち103人が収容されているチャド東部アバチェ(Abeche)の孤児院では、サッカーで遊ぶ男の子たちの元気な声がひびく。

 男の子81人、女の子22人が収容されているこの孤児院を5日訪問したAFP記者が目にしたのは、猛暑の中、サッカーに興じる子、ハエが飛び交う小屋の中で昼寝をする子、恥ずかしげにこちらを見つめる女の子たち。みな一様に自分の身に何が起きているかを理解していない様子だ。

 ソーシャルワーカーのAbsitaさんが、子どもたちの中でいちばん年少の、生後13か月のタヘール(Taher)ちゃんを抱きかかえる。タヘールちゃんは兄弟2人とともに「ゾエの箱舟」に連れ去られそうになった。「これはれっきとした誘拐だ」とAbsitaさんは怒りをあらわにする。

 Absitaさんによると、タヘールちゃんには母親がいる。他の子もたいていは親がいるということで、「子どもたちはスーダン・ダルフール(Darfur)地方から逃れてきた孤児だ」とする同団体の主張と矛盾する。

■見知らぬ人におびえる子どもたち

 国連(UN)機関が運営するこの孤児院に5日、アラブ首長国連邦のドバイ(Dubai)に本拠を置くNGO「Dubai Cares」の使節団がやって来た。チャド政府や国連と連携しながら、子どもたちを親元に帰す活動を支援し、学費を援助するという。

 使節団には3人の医師も同行し、かぜの症状や鼻血を出している子ども6人を診察した。いずれも深刻な病気ではないという。

 子どもたちのために食糧、衣料品、薬品を携えてきた使節団。しかし子どもたちが目を輝かせたのは、彼らが持参したおもちゃだった。男の子たちはボールという思いがけないプレゼントを目にして奪い合いとなった。

 だが、しばらくすると子どもたちの目からは大粒の涙が。彼らを世話している地元の人々によると、「また連れ去られるのでは」との恐怖から、見知らぬ人におびえるのだという。

■フランス人メンバー6人の裁判は「チャドで」と州知事

 事件では「ゾエの箱舟」のフランス人メンバー6人とフランス人ジャーナリスト3人、スペイン人客室乗務員4人を含む欧州人17人が、103人の子どもをチャドからフランスへ密出国させようとしたとして拘束され、誘拐罪と共謀罪で起訴された。

 その後、フランス人ジャーナリスト3人とスペイン人客室乗務員4人については不起訴処分となり、4日に釈放されて帰国したものの、残り10人は首都ヌジャメナ(N’Djamena)で拘束されたままだ。

 起訴されたフランス人メンバー6人について、ウアダイ(Ouaddai)州の州知事は、「事件はチャドで起こったのだから」フランスではなくチャドで裁かれると強調した。また、この事件でチャドとフランスの関係が悪化したかとの問いには「ノー」と答え、「悪意のあるあの組織とチャド人の間の問題だ」と語った。(c)AFP/Lydia Georgi