【10月31日 AFP】冷ややかな目と鋭いつめを持ち、動物の死がいを探し回るハゲワシは、環境保護活動家の関心の的とは言えない存在だが、ネパールでは状況が異なる。強力な薬品を投与された家畜の死がいを餌にしてきた結果、ハゲワシの個体数が激減しているのだ。

 この対策として、ハゲワシのための餌場となる「ハゲワシ・レストラン」を作るというプロジェクトがスタート。その結果、個体数は徐々に回復し、同時に、かつては疎まれていたハゲワシに対する国民の認識も変わりつつあるという。

■個体数激減の原因は、家畜に投与する薬品

 ネパールでは、10年前には推計30万羽いたハゲワシが、現在は1000羽程度まで減少。ハゲワシが主に餌としている家畜の管理によく使われる、ジクロフェナクと呼ばれる鎮痛薬兼抗炎症薬が原因とされる。

「ジクロフェナクを投与された家畜の死がいを食べたハゲワシは、肝臓の不調で24時間以内に死亡することが研究で明らかになっている」と、ハゲワシレストランの考案者であるネパール鳥類保護協会(Bird Conservation NepalBCN)の鳥類学者、Hem Sagar Baralさんは語る。ハゲワシはかつてはどこにでもいたが、ネパールでもインド亜大陸全体でも、わずか10年の間に個体数が95%以上減少したという。

■ハゲワシに安全な肉を

 ネパールの「ハゲワシ・レストラン」は、首都カトマンズ(Kathmandu)の南西120キロのナワルパラシ(Nawalparasi )郡にある。「われわれの目的は汚染されていない餌をハゲワシに与え、絶滅の危機から救うことだ」とレストラン運営委員会代表のTila Bhusalさんは話す。

 ヒンズー教徒が大半を占めるネパールでは、ウシは神聖とされ、殺すことは厳しく禁じられていることから、病気にかかった牛は以前、公式には世俗国家であるインドとの国境に運ばれ、食肉として売られていた。

 2007年初頭から、BCNは病気で死にかけた家畜を1頭当たり3ドル(約350円)で買い取っている。こうした家畜をコミュニティー所有の森にあるハゲワシレストランの農場に運び、必要であればハゲワシに影響のない鎮痛薬を投与する。その後、自然死するまで世話をし、死がいにジクロフェナクが残留していないと判断されると、ハゲワシが食べやすいように皮がはがし、餌場に運ぶ。

 類似のプロジェクトは、すでに南アフリカや欧州で成功しているが、ネパールのプロジェクトがユニークなのは、環境保護専門家ではなく、地域コミュニティーが運営している点だ。

■有害薬品の使用を禁じる運動も推進

 BCNはハゲワシが清潔な肉を得られる場所を提供するだけでなく、国内での獣医用鎮痛薬の使用を禁じる運動の推進にも成功した。ハゲワシ激減の主因がジクロフェナクであることが判明したため、2006年に同薬品の使用が禁じられたのだ。

 さらに、BCNは英国王立鳥類保護協会(Royal Society for the Protection of BirdsRSPB)の支援を得て、地域の農家や獣医がジクロフェナクの代わりにハゲワシに影響のない代用薬を利用できる体制も確立した。

■変わりつつある地元住民の意識

 ハゲワシは長い間ネパールで「縁起が悪い鳥」とされていたため、地元住民を取り組みに参加するよう説得するのは簡単ではなかったが、最近はハゲワシに対する考え方も変わりつつあるという。

「初めはハゲワシが死んでも誰も気にしていなかった」と語るのは、ハゲワシの窮状に関心を引くよう尽力してきたコミュニティー代表のIshwori Chaudharyさん。「いまでは、ハゲワシはわれわれの環境に必要不可欠な存在で、死肉を食べることで病気のまん延を防ぐ重要な役割を果たしていることを、みんな認識している」

■訪れる「客」は多数、出だし好調なレストラン

 課題はまだ山積しているものの、ハゲワシレストランには広範囲から多くの「客」が訪れ、レストランの出だしは好調だという。

「餌は遠くのハゲワシをも引き付けている。初めは数種のハゲワシが20羽程度来るだけだったが、いまでは100羽以上が訪れる」とプロジェクト調整役のDhan Bahadur Chaudharyさんは喜びを表す。

 Baralさんは「われわれが取り組んでいることは、氷山の一角に過ぎない。ネパールに8種いるハゲワシを救うために、もっと努力しなければならない。最終的にはハゲワシレストランの数を増やし、監視塔とビジターセンターを作れればと考えている」と語る。

 肥沃な土壌から亜熱帯の平原、雪を冠したヒマラヤまで多彩な土地に約860種の鳥類が生息するネパールは、バードウォッチャーにとっての楽園だ。

 レストラン運営委員会のBhusalさんは「近くにある世界的に有名なチトワン国立公園(Chitwan National Park)には、野生のトラやサイを見に多くの観光客が訪れる。数年後には、われわれのハゲワシも見に来て欲しい」と将来への抱負を語った。(c)AFP/Deepesh Shrestha