【10月29日 AFP】31日から4日間、インドのニューデリー(New Delhi)で「第7回世界トイレサミット(World Toilet Summit)」が開かれる。同サミットで発表予定のインドの環境専門家は、トイレを普及させることによって、病気のまん延を止めることができるだけでなく、人の排泄物を捨てに行くという嫌な仕事から下層カーストの人々を解放できると、貧困にあえぐ国民のためにトイレ整備の推進に尽力している。

■排泄物処理は下層カーストの仕事

「汚れ」に対する恐れが根強いインドでは、数百年にわたって維持されてきたカースト制度の中で、各家庭の排泄物をバケツに入れて捨てに行く下層カースト層がもっとも忌み嫌われてきた。

 国際ボランティアNGO「スラブ・インターナショナル(Sulabh International」の創設者ビンデシュワル・パタク(Bindeshwar Pathak)氏は、「下層カーストの人々がいなければ皆、疫病で死に絶えていただろう。なのにその返礼として、社会は彼らに『アンタッチャブル(賎民)』の烙印を押した」と語る。

 30年以上前に衛生改善のために同団体を創設したパタク氏は、下水施設がなくても使えるトイレの普及を行っており、31日よりニューデリーで開催される「第7回世界トイレサミット」で、ヒトの排泄物利用に関する詳細な計画を発表する。 

 パタク氏がトイレの普及運動に目覚めたのは、1970年代に夜間にゴミをあさって生活を支える人々の住むスラムで数か月を過ごしたことと、幼少期のあるできごとがきっかけだという。

 カーストの最高位バラモンに属する同氏は、幼少時に住んでいたビハール(Bihar)州の村で下層カーストの女性に触れ、祖母にひどくしかられた。

「大騒ぎだった。体を清めるのだと、ウシのふん尿と砂とガンジス(Ganges)川の水を飲まされた」とパタク氏は笑い、人生でもっとも鮮明に覚えている記憶のひとつだと語った。

■衛生から安全まで、トイレ不足は大問題

 スラブ・インターナショナルはこれまでに、国内に120万台のトイレを設置した。毎日1050万人によって使用されている。しかし、7億人が土壌を汚染しないトイレ施設を使えていない同国では、ごくわずかな助けにしかならない。

 国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)の統計によると、インドでは毎年約40万人の子どもが汚染された水による下痢で死亡している。

 都市部でさえも、約1億人が整備されたトイレを利用できない環境にあり、バケツで排泄物を捨てに行く人に頼ったり、定期的に下水溝の詰まりを取り除いたりしなければならないという。

 公式発表によれば、首都ニューデリーでは1400万人のうち5分の1の人口が、下水道のない環境で生活している。別の調査では約半分との結果も出ている。

 農村地域では、田畑や線路に排泄物が廃棄されている。また女性が早朝や夜に、ひと目につかない場所に行けば、性的暴行などに遭う可能性が高くなる。

 40か国から参加者が集まる世界トイレサミットでは、トイレが利用できない世界の人口26億人を2015年までに半分に削減するという、国連(UN)の『ミレニアム開発目標(Millennium Development GoalsMDGs)』をいかに実現するかについて話し合われる。

■排泄物を有機分解、バイオガスに

 しかしパタク氏は、ほぼ100%がトイレを必要とする開発途上国で、下水施設や豊富な水を前提とした西洋式の水洗トイレの普及は不可能だと指摘する。「施設の建設はあまりにもコストが高く、必要な水の量も莫大だ。開発途上国では完全に無理だ」

 パタク氏のNGOは、排泄物を有機的に分解し、温室効果ガスを出すことなくバイオガスを作る環境に優しいトイレの推進を行っている。バイオガスは、その後発電や調理に使用できる。スラブ・インターナショナルではそのようなトイレをこれまでに175台設置し、17万5000人が使用しているという。

 一方、においはないものの、排泄物の有機分解システムには若干慣れが必要だろうとパタク氏は語る。カンボジアからスラブの事務所を訪れた客たちは、事務所で食べた食事が排泄物のガスで料理されたことを知ると、気分を悪くしたという。

 4日間のトイレサミットは、2001年に非営利団体として創設された「世界トイレ機関(World Toilet Organisation)」との共催。WTOは公衆衛生の改善を主要な国際課題として掲げ、42か国55団体が加盟している。(c)AFP/Tripti Lahiri