【10月11日 AFP】スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)は10日、2007年ノーベル化学賞を「固体表面の化学反応過程の研究」に貢献したドイツのマックスプランク協会(Max Planck Society)フリッツ・ハーバー研究所(Fritz Haber Institute)のゲルハルト・エルトル(Gerhard Ertl)名誉教授に授与すると発表した。

 固体表面化学という研究分野を開拓し、産業の発展に大きな役割を果たしたことが受賞の理由になった。また同氏のさらに重要な功績として、固体表面における化学反応を促進する「触媒」の働きの解明が知られる。

「平凡な研究に聞こえるかもしれないが、触媒作用は日常生活に欠かせない」と、英国王立協会(Royal Society)発行の化学専門誌「ケミストリー・ワールド(Chemistry World)」の編集者、マーク・ペプロー(Mark Peplow)氏は語る。

 触媒作用は、コンピューター用の半導体から化学肥料の製造、自動車の排ガス浄化など、産業界におけるあらゆる製造過程の核となっている。

 オックスフォード大学(Oxford University)のJohn Foord教授も「化学工業は触媒作用なしでは機能しない。日常生活で利用する化学物質の大半は、この反応を経て製造されている」と触媒作用研究の重要性を指摘する。「エルトル氏は、触媒作用が起こる基本的な仕組みの解明に寄与した」。化学工業製品の約90%が同氏の研究成果を活用しているという。

 ノーベル賞の選考委員会はエルトル氏の業績の中でも特に、化学肥料製造の基本となる「ハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)法」と呼ばれるアンモニア合成過程の研究に基づき、授賞を決定した。

 鉄の表面で窒素と水素を反応させてアンモニアを生産するハーバー・ボッシュ法は、第1次世界大戦(World War I)当時から知られていた。この技術を爆発物と化学肥料の製造に応用することでドイツが自国の崩壊を回避し、戦争が長引いたと分析する歴史家もいる。しかしこれまで、分子レベルでどのような反応が起こっているかについては解明されていなかった。

 エルトル氏は反応過程を説明するだけでなく、適切な段階でカリウムを加えると窒素内の分子の分裂が促進され、反応速度が上がることを突き止めた。

 ペプロー氏は、エルトル氏の発見以前の化学は「金属と気体を一緒に投げ込んで、何が起こるかを見守るような状態だったが、同氏の発見でこの反応を戦略的に行えるようになった」と功績をたたえた。

 エルトル氏の研究は、地球温暖化防止に貢献しうるエネルギー生産技術の開発にも役立っている。例えば触媒作用を基礎とする燃料電池は、代表的な温室効果ガスである二酸化炭素をまったく排出せずに、化学エネルギーを電気エネルギーに変換できると期待されている。Foord教授は「ただし、燃料電池が実用化されるには、何かしらの改良された触媒が必要になるだろう」と述べている。(c)AFP/Marlowe Hood