【10月5日 AFP】小さなおりに押し込められ、ベトナムとラオスの国境を越えて密輸されようとしていた野生の子グマ3頭は、東アジアで盛んに行われているクマの胆のうの違法取引の犠牲になる寸前だった。

 3頭はクマの胆のうでつくられる胆汁を取るために捕獲され、5月に保護された時にはそれぞれ体重2キロほど。栄養と健康状態が極端に悪く、おびえきっていたという。バスに乗せられ国境を越えようとしていたところを旅行者が見つけて環境保護団体に通報、当局に保護された。

 3頭は今、マラ(Mara)、マウジ(Mausi)、オリー(Olly)と名付けられ、動物保護団体のAnimals Asia FoundationAAF)が設置したクマ救出センターの初の「住人」になった。首都ハノイ(Hanoi)北部のタムダオ(Tam Dao)国立公園の一角にあるこのセンターは、200頭を収容し、保護されたクマを森の中で回復させるとともに、クマの胆のうの違法取引阻止の一翼を担いたい考えだ。

 クマの胆のうはアジアの伝統薬に使われ、ベトナムでは滋養強壮剤や抗炎症薬、肝臓や心臓病の治療薬、媚薬として売られているほか、シャンプーや歯磨き粉、ソフトドリンクにも添加されている。

 AAFベトナムのTuan Bendixsen局長によると、クマの胆のう抽出はクマに苦痛を与え、命を危険にさらすという。中国では胃に穴を開けて胆汁を流れ出させる方法を採用。ベトナムでは薬でクマを気絶させた後、長い針を使って胆汁を取り出すが、クマが完全に意識を失うわけではなく、針も衛生的でないためクマが感染症や病気にかかることもある。わなにかかって足先を切断されたり、クマの手のスープや酒にされることもあるという。

 野生生物の取引監視団体TRAFFICによると、クマはすべての種がワシントン条約(CITES)で国際取引を規制されており、ベトナムも同条約の締約国だという。違法取引や生態系の破壊により、ベトナムのツキノワグマは絶滅の危機にひんしており、密猟者はラオスやカンボジアとの国境に近い森の奥深くにまで入り込んでいる。

 ベトナムは動物保護団体からの圧力で2005年にクマ製品の商業取引を禁止し、クマ牧場も禁止した。しかしBendixsen局長によると、国内で少なくとも4000頭が捕獲され、おりに入れられたままになっており、現在でもクマの胆のう抽出が続けられているという。

 ハノイでも地方都市でも、クマの胆のうを宣伝する店があちこちにあり、経済成長に伴って可処分所得が増えれば、クマの胆のう需要がさらに高まるのではないかとTRAFFICの関係者は懸念する。

 AAFのレスキューセンターに保護される200頭は氷山の一角にすぎず、国からの許可が下りれば施設をさらに拡充していきたいとBendixsen局長は話している。(c)AFP/Frank Zeller