【9月18日 AFP】米民間軍事会社ブラックウオーター(Blackwater)のイラク国内での事業許可がはく奪されたことで、このような民間軍事会社の活動に注目が集まっている。

 イラク政府は17日、首都バグダッド(Baghdad)で16日に発生し8人が死亡した銃撃戦に、同社が派遣した職員が関与していたとして事業許可を取り消した。

 軍事の民間委託は増加傾向にあり、議論を呼んでいる。

 これに対し民間軍事会社は、内紛で分裂したり、対立からの回復状態にあったりする地域で必要不可欠な物資やサービス、警護を提供しているだけだと主張する。民間軍事ビジネスは推計1000億ドル(約11兆5000億円)規模の市場とみられている。

 イラクはこの「儲かるビジネス」の中心地であり、主な顧客は米国だ。

 ブラックウオーターはイラクで民間軍事ビジネスを展開する主要企業の1つで、米政府当局者らを警護する業務を請け負っている。

 イラクにはこうした民間軍事契約者が10万人以上いる。活動内容は、米軍基地への簡易トイレの提供から、現金輸送の護衛、当局者の警護など多岐にわたるが、大部分は物流関連活動に従事している。

 米ブルッキングス研究所(Brookings Institution)の専門家ピーター・シンガー(Peter Singer)氏によると、戦術行動にかかわっているのは2万-4万8000人で、これはイラクに駐留する米軍主導の多国籍軍の合計兵数を上回る。 

 民間軍事会社は、必要なサービスを軍より安価で提供できると胸を張る。

 米軍事シンクタンクGlobalSecurity.orgのジョン・パイク(John Pike)所長は、民間軍事会社の職員が軍と同様の制約下で働いていないことが強みになりうると分析する。

「彼らの給与が高いのは、周辺住民を巻き込むことなく対象を殺害できるからだ」「彼らは殺し屋だ。普通の兵士とは違う」

 ただ、このような軍の指揮系統から外れた独立性を米政府は懸念する。

 米政府監査院(Government Accountability OfficeGAO)は前年発表の報告で、「個人警護サービス提供者は米国軍との調整なしに戦場に入り続けている。その結果、両者が負傷する危険性が高まっている」と指摘している。

 危険性が高い一方で、給与が高いのも事実だ。これまでに推計1000人の民間軍事契約者がイラクで犠牲になっているが、給与は途上国の一般的な賃金はもちろん、米国陸軍職員の給与も大幅に上回る。 

 シンガー氏は「金儲けのために戦場に入るという動きにより、新たな可能性が大きく切り開かれた。その一方で、民主主義、倫理、管理、法律、人権、国内外の治安といった一連の難しい問題も浮上している」と指摘する。

 ブラックウォーターによると、職員の給与は日額450-600ドル(約5万-7万円)程度だという。

 民間軍事会社は通常、活動内容を説明する際に「傭兵」という言葉を使うことを敬遠する。

 イラクが最も大きく顕在化した市場である一方、アフガニスタンの警察部隊の訓練、レバノンの地雷除去、コロンビアの反政府地域での麻薬撲滅活動など、世界中で活動を展開する民間軍事会社も多数ある。

 シンガー氏は軍事の民間委託の流れは米国陸軍のイデオロギーに変化を与え、1980年代の「民営化革命」に弾みを与えたと指摘する。

 一方、パイク氏は「米国が徴兵制をとっていた頃は、兵力は豊富で安価だった。現在のプロの軍人は高価だ」とし、米国がベトナム戦争に派遣する若い兵士の徴兵を廃止した1973年以降、状況が変化したと述べた。(c)AFP