【9月18日 AFP】同じ「におい」でも人によっては感じ方が違うのは、その人が持つ1つの遺伝子の違いによる可能性が高いという研究報告が、16日発行の英科学誌「ネイチャー(Nature)」で発表された。

 ヒトの嗅覚と味覚は極めて主観的なものであることは知られている。ある人が素晴らしい匂いだと感じる香水でも、別の人にとっては不快だし、ある人が究極の美酒と思うワインも、別の人にとっては単なる安酒に感じられる。さらに、そのどちらとも感じない人もいる。なぜ人によってにおいや味に対する感じ方が違うのかは、これまで解明されていなかったが、このほどニューヨークのロックフェラー大学(Rockefeller University)のLeslie Vosshall氏が行った実験により、この謎を解く鍵の1つが提供された。

 実験では、被験者に「アンドロステノン(androstenone)」など、数十種類の臭気の「強さ」と「不快度」を判断してもらった。アンドロステノンは、男性の尿や汗に含まれる臭気の原因物質。8割の被験者はアンドロステノンを「古い尿のようなにおい」だと評価したが、残りの2割は同じにおいを「バニラかハチミツのようで心地よいにおいだ」と評価した。

 一方、ノースカロライナ州のデューク大学(Duke University)で松波宏明(Hiroaki Matsunami)氏が率いる研究チームが行った実験により、アンドロステノンにより「OR7D4」と呼ばれる嗅覚受容体遺伝子の1つが作動することが分かった。ヒトの嗅覚受容体遺伝子は数百種類あるが、鼻腔の神経細胞は一度に1個の遺伝子しか作動できない。

 そこで2つの研究チームは共同研究を行い、互いの実験で入手した被験者のDNAサンプルを用いて「OR7D4」を調査した。その結果、一部の被験者の中で、「OR7D4」は一塩基多型と呼ばれるわずかな突然変異を起こし、基本的なDNAのブロックの一部が変化していたことが判明した。

 このDNA分析結果を、実験結果と対照してみると、アンドロステノンを「ネコの古いおしっこのようだ」と感じたグループと「バニラのようだ」と感じたグループの区分と、「OR7D4」遺伝子が従来どおりのグループと変化したグループとの区分とが、一致していることが確認されたという。

 これを受けて共同研究の総責任者のアンドレアス・ケラー(Andreas Keller)氏は、「同一の臭気が人によって感じ方が異なるのは、嗅覚受容遺伝子OR7D4の微妙な違いによって決定されると言える」と説明している。(c)AFP