【9月18日 MODE PRESS】雑誌のスタンスはそれぞれあっても、レベルの高さを決めるのは編集長の資質と意欲だ。とりわけ求められるのは、ぎりぎりまで妥協しない姿勢だろう。顔で笑って心で泣くこともあるし、時にはあえて心を鬼にして怒鳴る必要もある。

■一途に戦う編集長の姿

 そんな編集長のあるべき姿の見本例の一つが田口さんだ。「一途に闘っていることが多いけれど、私ってそんなに強い人間じゃないのに」。相手は社外だったり、社内上層部だったり、部員を厳しく叱ることもある。だがそれは、ファッションを愛し、「ハイファッション」を愛しているからだ。

 少さいころから本好きで、内向的な性格。舞台や映画にも興味があった。ハイファッションの写真を見て「なんてきれいなんだろう」と心を奪われた。文化服装学院に進み、70年に文化出版局入社。最初は「so-enアメリカ版」に配属された。そのころにコムデギャルソンが設立され、「見に行ったら、たちまち惹かれた。自分が着たい服と出会った」。それが、ファッション誌の編集者として仕事を続けてきた原動力になったという。

■「ミスター・ハイファッション」編集長に

 91年に「ミスター・ハイファッション」の編集長に。時代に切り込むきちんとした批評眼と、エッジの効いた写真表現で、メンズファッション誌の新しい方向性を形作った。「トレンドを追うのではなくて、ライフスタイルの中で考えること」。トレンドという言葉を紙面で使うことを禁止したこともあった。

 「なるべく大勢の読者に読んでもらって、しかも読む人が読めばクオリティーの高さもわかってもらえるような雑誌が作りたかった」

 ハイファッションは隔月刊だが、勤務はほぼ深夜に及ぶ。「誌面のことを四六時中考えていて、生活は破綻するというか……」。好きな歌舞伎や舞台を観て気分転換をすることもあるが、それも結局仕事に反映してしまうことが多いという。多忙でつらいことがほとんどだが、「何かを発見したり、いい誌面ができたという喜びには代えられない」。

■まずは絶対に「体力」、そして好奇心

 後進へのアドバイスは、漠然とファッションやマスコミを志望するのではなくて、分野や媒体などの違いをなるべくきちんと把握してから決めることだという。

 でも、「どちらにしても入ってからプロにしてもらう感じ。まず、絶対に体力。それから好奇心ですね」(c)MODE PRESS