【8月29日 AFP】観衆は「幸運な」ディーラーをひと目見ようと身をよじり、緑のフェルトに覆われた半円形のバカラ(Baccarat)台を3重に取り巻いていた。

 できるだけ多くのチップを賭けようと、多数の腕が差し出される。28日の昼下がり、勝利を欲しいままにしていた「バンカー」側に誰もが勝負を賭けた。

 しかし、このときだけは「バンカー」が負けて「プレーヤー」が勝利。賭け金のパタカ(マカオの通貨)は、カジノ「ウィン・マカオ(Wynn Macau)」のディーラーに回収され、カジノ側は多額の収入を懐に収めた。

 マカオ(Macau)の驚異的な成功は、この欧州発祥のゲーム「バカラ」によるものだ。

 ポルトガルの小さな旧植民地に過ぎなかったマカオだが、昨年1年間の賭博収入では米ラスベガス(Las Vegas)をついに抜いて、世界一のカジノ都市の地位に躍り出る勢いだ。バカラは、マカオの躍進にあわせて、中国人ギャンブラーたちの財布の金をどんどん吸い上げ続けている。

 マカオ特別行政区当局の統計によると、2006年のマカオのカジノ収入は60億ドル(約6900億円)と、前年比で25%も増加。カジノからの収入は、マカオの歳入全体の85%を占める。

 中国でのバカラ人気は、ラッキーカラーから吉日まで、幸運に執着する国民性と結び付けられることが多い。バカラは技術的要素のない、純粋な「運」の側面に左右されるゲームだからだ。

 ウィン・マカオの幹部は「(バカラは)その日の自分の運勢をはかるゲームだ」という。

 バカラは、神秘的なベールに包まれて語られることも多いが、ルールはいたって単純だ。参加者は「プレーヤー」と「バンカー」の2人。観衆は、両者いずれかの勝利または引き分けに賭け金を投じる。 

 ゲームでは、配られたカードの合計数字の大きい方が勝者となる(最大9)。合計ポイントは独特の計算方法で算出される。勝者予想が当たるとかけ金は倍額で返金され、引き分けの予想が当たった場合には返金額が11倍にも膨らむ。

 賭けの参加者はツキがプレーヤーにあるのか、バンカーにあるのかを見極めようとする。カジノ側でも「ツキの行方」を示す専用のコンピューター掲示板を用意し、先行ゲームの結果を表示している。しかし、ゲームは毎回振り出しから始まるので、過去のゲーム結果と将来の勝敗予想とは実際には無関係だ。

 中国のバカラ熱はすさまじく、ウィン・マカオでは開店後にバカラ台を追加する騒ぎも起きた。現在の同店では、賭博スペース全体の8割をバカラ台が占める。米国のカジノでは対照的に、ブラックジャックやスロットマシンが店内フロアの大半を占める場合が多いという。(c)AFP/Guy Newey