【8月29日 AFP】インドネシアの首都ジャカルタ(Jakarta)の北方わずか45キロに拡がるプロウ・スリブ(スリブ諸島、インドネシア語で「1000個の島」を意味)で、環境保護活動家のサリムさん(57)は今日も絶滅危惧種に指定されているウミガメの一種「タイマイ」の甲羅にこびりついた苔を取り除く。これは、数あるサリムさん日課のうちのほんの1つだ。

 プロウ・スリブ国立公園の元職員だったサリムさんは、20年にわたってタイマイの保護活動を続けている。サリムさんのもとではウミガメたちも安全だ。しかし、彼らは再び汚染にまみれた海に戻り生き残っていかなければならないのだ。

■人口過密が招いた海洋汚染が島々にも

 サリムさんは、20年の間、1億2000万の人々であふれかえるジャカルタのジャワ(Java)島の海岸から、周りの島々へも徐々に海洋汚染が広がるのを見てきた。

 同諸島は、1986年に国立公園に指定され、動植物の保護が求められるようになった。しかし、現実には押し寄せる汚染になすすべもないのが実情だ。

 2005年に行われた調査(公式データは1995年以後のものしか存在しない)では、プロウ・スリブ国立公園に隣接するジャカルタ湾の生態系は破壊されつつあるとの結果が出ている。

 有機金属や重金属レベルは安全基準値をはるかに上回り、最も有害とされるPCB濃度は1320ppbにも上った(安全基準値の上限は0.03ppb)。

■甲羅が変形したタイマイは始まりに過ぎなかった

 ウミガメ7種のうちタイマイを含む6種がインドネシアに生息。かつてはプロウ・スリブの公式マスコットにもなるほど、タイマイは諸島のあちこちで見られる存在だった。同国立公園のスマルト所長も、20年前までは諸島を構成する110の島々のどこでもタイマイの産卵がみられたと宣言する。ダイバーらも潜水すれば、たいていはタイマイに遭遇することができた。

 しかし、その後、タイマイの数は激減。1990年代にはタイマイが確認できたのは13島のみとなってしまった。現在、タイマイの産卵が確認されているのは、ジャカルタから最も遠い諸島内最北の3から5島のみだ。生まれた場所への帰還本能を持つウミガメだが、誕生地が汚染され帰還を阻まれ、巣づくりの場を他の土地へ求めなければならなくなったためだ。

 環境保護への取り組みに対しインドネシア大統領から表彰されたこともあるサリムさんは、1993年に甲羅がでこぼこに変形したタイマイを3匹発見したという。そのうちたった1匹生き残ったマイタイを抱きながら、「こんな現象は以前には見られなかったことだ」とサリムさんは憂慮する。これが異変への警鐘の始まりだった。以後、事態は悪化の一途をたどるばかりだ。(c)AFP