【5月31日 AFP】都会の高級料亭で出される料理に色どりを添える季節の葉を高齢の女性たちが集めて出荷する――こうしたビジネスが、とある地方の町で年商2億5000万円を超える大きな産業になっている。

 徳島県上勝町は人口およそ2000人。住民の43%が65歳以上、80代以上の女性も多い典型的な地方の町だ。上勝町には、自然のほかにこれといった資源はない。だが、この資源が町に産業をもたらした。そして、この町の成功を学ぶため、年間約4000人もの人々がこの町を訪れる。

■地元住民が始めた「葉っぱビジネス」

 レストランの料理の盛り付けやスーパーマーケットの精肉鮮魚のパックには、プラスチック製の花や葉が広く使われているが、伝統的な日本料理を出す高級店では、本物の花と葉は美しい盛り付けに不可欠な要素だ。

 これに着目し、事業を軌道に乗せたのが町と地元企業が出資した第3セクター「いろどり」(Irodori)だ。モミジ、竹、松、イチョウなどの葉を集め、全国の高級料亭に出荷している。同社は200人ほどの住民と契約しており、契約者はFAXで注文を受け、必要な葉を集めて納品する。なかには年収が1000万円を超える人もいる。

 「ただの葉が売れるなんて、最初はだれもが半信半疑でした」と81歳の女性は語る。
 「この仕事がなかったら、今ごろどうなっていたかと思います。もはや、ただの仕事ではありません」

 作業は経済的な利益をもたらすだけでなく、健康にもよいという。社会の高齢化で老人医療費の高騰に悩む日本にとっては明るいニュースだろう。上勝町に住む65歳以上の高齢者の医療費は年間4億4000万円で、同じ規模の町の平均よりも低い。

■ミカン産業から転業
 
 この町は元来ミカンの産地だったが、1981年の冷夏と台風でミカンの木が大きな被害を受けた。農家が別の仕事を見つける必要に迫られたとき、注目されたのが葉だった。

 はじめは葉を出荷するだけだったが、最近ではアヤメの葉を折り紙のように加工して作ったツルや扇、船、矢の形をしたものなど、付加価値の高い商品も取り扱うようになった。

 「上勝のような山間部の町は衰退の一途をたどるとみられがちだが、かならずしもそうではない」と語るのは、いろどりの代表取締役、横石知二氏。
 「山間地であるため容易に葉が手に入ることや、時間のある熱心な高齢者がいるなど、成功には多くの要因があったと思う。小さな町だから皆が知り合いで、自然に競争意識も芽生えた」(c)AFP/Shingo Ito