【5月27日 AFP】ロンドンで毒殺されたロシアの元情報局員アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏の姿を描いたドキュメンタリー作品『Rebellion: The Litvinenko Case』が26日、第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)で上映された。

■異例の途中エントリー

 アンドレイ・ネクラーソフ(Andrei Nekrasov、48)監督とオルガ・コンスカヤ(Olga Konskaya)監督が共同でプロデュースした90分の本作は、カンヌ映画祭が上映作品リストを4月に公式に発表した際、まだ未完成だった。今回の作品完成に伴い、異例の途中エントリーとなった。

■病床でも続いた撮影

 2000年にロンドン市内でリトビネンコ氏と出会たネクラーソフ監督は、約2年前から氏のドキュメンタリー映画制作に取りかかった。ロンドンではロシア連邦保安局(FSB)の元中佐だったリトビネンコ氏は、局で行なわれた脅迫や契約殺人などを告発し、イギリスに亡命していた。ネクラーソフ監督は、リトビネンコ氏の死の直前まで撮影を続けた。

 本作は彼の友人たちからリトビネンコ氏へ向けた贈り物とも言える。放射性物質「ポロニウム210」を服毒され殺害されたリトビネンコ氏は、作品中で当局が行った犯罪を痛烈に批判した、信念のある人物として描かれている。

■動きをみせた英当局

 英当局は22日、旧ソ連国家保安委員会(KGB)元将校のアンドレイ・ルゴボイ(Andrei Lugovoi)氏を容疑者と断定し、英国での裁判のため身柄を引き渡すようロシア政府に要請した。ロシア側も、充分な証拠があれば要求に応じる構えだ。

これについて、「英国捜査官はよくやった。かなり特殊な理由が無ければ、彼らがロシア人を告訴することはなかっただろう」とネクラーソフ監督。

「映画を巡って緊迫感が増す中、多くの人は単純な答えを求めている。しかし、この話に単純な答えなどないと思う。」


■失われつつある「言論の自由」

ネクラーソフ監督は、国内で1999年に起きた爆破事件を例を挙げ「ゆっくりだが確実に、私達は言論の自由を失っている。サーシャ(リトビネンコ氏)は、発言の自由は阻止されるべきではないと常に主張していた」

また同氏は、プーチン大統領がドイツとリヒテンシュタインを介し、マフィアと通じる国際的マネー・ロンダリングに関与していたと主張していた。しかし、この点についてネクラーソフ監督は、「僕は探偵ではないから、この事件は専門家に任せたほうがいい」と述べている。

■信念を持ち、発言することの大切さ

フィンランドにある監督の自宅は、3週間前に何者かに荒らされた。しかし、盗られた物は何もなかったという。 映画の公開が怖くないかと質問に対し、「少しね。恐怖は人を押し潰す一種の病気みたいなものだ。でも僕達は信念を持って、信じていることを発言するんだよ」(c)AFP