【香港 15日 AFP】第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)で、王家衛(ウォン・カーウァイ、Wong Kar-wai監督)(48)が初の全編英語作品『マイ・ブルーベリー・ナイツ(My Blueberry Nights)』で、映画祭のオープニングを初の中国人監督として飾る。マフィア・ストーリーや格闘技ものに代表される香港映画に個性的な作風を持ち込んだ同監督だが、海外に比べ、お膝元である香港での評価は意外と低い?

■ウォン・カーウァイ監督とは

 芸術性の高い映像表現で人気を博し、多くの国際賞も受賞してきたウォン監督は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス(Buenos Aires)に住む中国人ゲイ・カップルの愛憎を描いた1997年の作品『ブエノスアイレス(Happy Together)』で、中国人初のカンヌ映画祭・最優秀監督賞を受賞した。

 世界で大絶賛されたのは、2000年の『花様年華(かようねんか、In The Mood For Love)』。カンヌ映画祭の最高賞である「パルム・ドール(Palme d’Or)」にノミネートされ、米国では270万ドル(3億2500万円)の興行成績を記録した。

 カンヌとの関わりは深く、2006年には中国人として初めて同映画祭の審査委員長を務めている。

■海外での高評価と対照的に・・・

 ウォン監督の作品は国際的には大きな賞賛を得てきたが、香港での評価はいまひとつ。脚本ナシ、時には筋書きさえなしで制作するウォン監督に対し、地元メディアは「風変わりで分かりにくい人物」といった評価が多い。

「香港ではウォン監督の作品はヒットしない。派手な表現の大衆映画を好きな香港の人々の好みに合わないのです」と映画評論家Lam Keeto氏は分析する。「ほとんどは彼の映画の深い意味を理解せず、退屈だという人すらいる」

■タランティーノ監督に見いだされ国際舞台に

 ウォン監督は上海で生まれ、5歳の時に香港へ移った。地元の大学でグラフィックデザインを専攻、1980年に卒業した後、それまでは正式な訓練を受けたことのなかったドラマ分野に転じ、テレビドラマのトレーニング・コースを受講。ドラマ・プロダクションでアシスタントとして勤務した後、テレビ・ドラマの脚本家となった。

 デビューを飾ったのは88年の『いますぐ抱きしめたい(As Tears Go By)』(翌89年にカンヌで上映)。90年の第2作『欲望の翼(Days of Being Wild)』は、興行成績こそ振るわなかったものの各地のベスト映画ランキングの上位を占めた。

 国際的な評価が高まったのは、94年の『恋する惑星(Chungking Express)』。風変わりなロマンティック・コメディで、クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)監督が気に入り、自ら設立した映画配給会社ローリング・サンダー・ピクチャーズ(Rolling Thunder Pictures)の第1回配給作品に選んだ。

 ウォン監督は、綿密に計算された戦略で欧米の観客に訴える方法を知っている、とLam氏は言う。「全体の作品作りからキャスティングにいたる細部まで、きちんと市場戦略を練っているのが分かる。世界の映画マーケットに訴える俳優を使い、ヨーロッパ的な選曲をしている」

■演技指導に定評、撮影期間が長い側面も

 ウォン監督のもうひとつの成功の鍵は、映像作家クリストファー・ドイル(Christopher Doyle)との共同作業にある。

 トレードマークの黒いサングラスを離さないウォン監督は、個々の俳優のベストの演技を引き出すことでも知られており、トニー・レオン(Tony Leung)やマギー・チャン(Maggie Cheung)といった国際的なスターが輩出した。

 元ミス・ワールド香港代表のマギー・チャンは、2004年に元夫のオリビエ・アサヤス(Olivier Assayas)が監督した『Clean』で麻薬中毒のロックンローラー役を演じ、カンヌ最優秀女優賞を受賞するまでに成長した。

 またLam氏は、「他の監督では平凡な演技を見せるトニー・レオンが、ウォン・カーウァイ作品の時はまったく違う」と、監督の手腕を評価する。

 一方、ウォン監督の手法に俳優たちが不満を募らせることもある。制作に5年を費やしたSFラブストーリー『2046』は2004年のカンヌ映画祭で上映されたが、レオンはその撮影過程を「拷問だった」と表現した。

 しかし、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』で主演したグラミー賞常連のノラ・ジョーンズ(Norah Jones)や、『The Lady from Shanghai』主演のハリウッドの大物女優ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)など、ウォン作品への出演に意欲を見せるスターは絶えない。(c)AFP/FRANCOIS GUILLOT