【パリ/フランス 22日 AFP】映画界最大の式典、カンヌ国際映画祭でアーティスティック・ディレクターを務めるティエリー・フレモー(Thierry Fremaux)。一般の映画好きには馴染みがないが、ハリウッドからボリウッドで映画を作る人々の間でその名を知らない者はいないだろう。

■「プレッシャーは感じない」
 
 フレモーが選ぶ作品は世界の注目を集め、その監督たちは栄光を手にする。反対に、切り捨てられた作品は大きな打撃を受けることとなる。 
 
 カンヌに出たい何千人もの監督たちからのプレッシャーはあるかという質問に、「プレッシャーはない。プレゼントもないが」と回答。「ディレクターやプロデューサーが、『(フレモー氏は)私の作品を選びますよ』と言うのは、映画至上最も素晴しいこと。これをプレッシャーとは呼びません」と同氏は語る。

 だが、時には自分の作品の出品を果たすため、無理な脅しをする者も。「皆緊張するもの」と理解を示す。「幸いにも、私たちの選択は常に好評だ」。クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)、テレンス・マリック(Terrence Malick)、ウォン・カーウァイ(Wong Kar Wai)など映画界の著名人たちと、2001年以来信頼関係を地道に築いてきた同氏だからこそ。

 それでも2003年の「ミスティック・リバー(Mystic River)」など、アーティスティック・ディレクタゆえ「芸術性」の高さを称して選んだ作品がボイコットされ、屈辱を感じた経験もある。「他では、良い作品が3つもあれば『今年の映画祭は成功』と讃えるが、カンヌ映画祭では毎日2本の傑作が期待される」と語る。

■多くの要求を同時に考慮
 
 カンヌの評判は同時に少々の‘華やかさ’に懸かっていることも承知の上。それゆえ、出品作品とは無関係でも「マトリックス3(Matrix 3)」や「ダ・ヴィンチ・コード(The Da Vinci Code)」など、会場の顔ぶれに大物を招けるようハリウッド作品を取り込むこともあった。ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodovar)、ナンニ・モレッティ(Nanni Moretti)、ジョエル・コーエン(Joel Coen)にイーサン・コーエン(Ethan Coen)兄弟などの有名監督たちは、毎年お馴染みの出席者。だがフレモーは新たな要素も負けずに取り込むという。

 前任のジル・ヤコブ氏(Gilles Jacob)がこの映画祭の揺るがない地位を築いたのは確かだが、人々が同氏を尊敬するのは、これら全ての要求を上手くまとめる才能があるからだろう。現在、運営委員長を務めるヤコブ氏も、「フレモーはいい作品を選ぶ」と評価する。

 
■ー映画ファンとして仕事を楽しむ
 
 フレモーは、東部の町リヨン(Lyon)の映画学校を運営する大の映画ファン。同氏にとって、カンヌ映画祭のポストはまさに夢だった。「私たちは時に、自己中心的な暮らしをしていると感じるもの。世界について語ってくれる、芸術家がいるのは幸運なことだ」と語る。

 1年800本、1日4~6本の映画を観ることも、韓国からブラジルまで新たな才能を探しに飛び回ることも、彼にとっては楽しみ同様。

 5月16日~27日にわたり開催される第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)を目前に、フレモーは大忙し。「健康管理に気をつけて、食事は軽く済ませ、よく寝ること」と同氏は記者に語るものの、2歳と4歳の子供の父でもあるフレモーはどこか落ち着かない様子。

 映画祭が終了すれば、翌年の準備が始まるまでしばしの休暇が待っている。「6月になれば気持ちも整理でき、肩の荷も下りる」とフレモーは微笑んだ。

写真は20日、インタビューに応じるフレモー氏。(c)AFP