【東京 8日 AFP】8日投票日の東京都知事選挙で3期目の当選が有力視される石原慎太郎東京都知事(74)は、政治的な正しさをめぐる議論を誘発することが好きな国家主義者だ。

 小説家から政治家に転身した石原都知事は1999年、東京都知事に就任し、ディーゼルエンジンの規制、東京マラソンの開催および2016年夏季オリンピックの招致などの政策で高い支持率を得ていた。

 だが徐々に同知事は、遠慮を美徳とする日本において毒舌さで有名になっていった。同知事の攻撃対象は中国、フェミニスト、現代美術と多岐にわたる。中国や韓国国民をあざける人種的中傷発言をしたかと思えば、東京近郊の広大な米軍基地を日本の民間ジェット機が共同利用することをめぐって国民から怒りの声が上がる中、米国を「偏狭な」国家と非難したこともある。

■石原氏の発言

 石原都知事は特に、尊敬すべき進歩的な議論に水をさすのが好みのようだ。ミュージシャンのボブ・ゲルドフ(Bob Geldof)氏やボノ(Bono)氏が貧困に苦しむアフリカへの支援を訴え世界中で開催しているコンサート、「ライブ8」(Live 8)が東京で開催された際、石原都知事は同ミュージシャンらの行動が「見せかけ」だとあざけり、「植民地政策に対する償いをしていない」として欧州を非難した。

 また、作家である石原氏は、文化、教育、知識人界といった左派勢力が得意とする分野で張り合うことにも熱心だ。

 2006年、東京都内で開催された「カルティエ現代美術財団(Cartier Foundation)コレクション展」のオープニングセレモニーに出席した石原都知事は「現代芸術は無そのもの。日本文化は西洋文化より優れている」と語り、出席者らをうろたえさせた。

 卒業式や入学式などで国家斉唱するようにとの命令に従わなかった教員らを非難し、同教員らを「納税者から給料を受け取っている公務員」と呼んだこともある。

 海運会社役員の父を持ち、北海道で自由な幼少期を過ごした石原氏は、23歳のときに発表された小説「太陽の季節」で芥川賞を受賞し、一躍有名人となった。

 裕福な家庭に育った若者の無軌道な生き様を描いた同作品は後に映画化され、石原氏自身と弟の石原裕次郎氏がそろって出演している。裕次郎氏は高い評価を受けた映画俳優で、1987年に肝臓ガンで亡くなっている。

 また、第二次世界大戦(World War II)後、国内に駐留している米軍に対する嫌悪感を訴える石原氏は1989年、共著作品「『NO』と言える日本-新日米関係の方策-」で政治家らの米国政府に対する弱腰な姿勢を非難し、同書はベストセラーとなった。

 最近では、石原氏は日本の最大の貿易相手国、中国との協力関係に「No」と言うべきだと主張している。2005年、AFPの取材に対し石原氏は「中国は日本の技術を盗んでいる。われわれは中国に多くのものを提供してきたが、ソフトウェアを無料で盗ませるわけにはいかない」と語った。

 8日の都知事選挙後には、石原氏が製作総指揮および脚本を担当した映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」の公開が予定されている。同作品は第二次大戦中に命を落とした神風特攻隊の青年らを描いたもの。石原氏は、2006年に開催された記者会見に、日の丸が描かれたはちまきと特攻隊のゴーグルを身につけ、軍隊式の敬礼をする20人の青年らと出席した。作品について同氏は「任務により命を落とす美しい若者たちを描いた」と述べ、敗戦以来平和主義を貫く日本が「強い意志」を失ったことが遺憾と語った。

■石原氏の「ババァ」発言をめぐり訴訟も

 石原氏が出産適齢期を過ぎた女性を「ババァ」と呼び死んだ方がましだと示唆した問題で、同氏は名誉棄損で訴えられた。だが、弟裕次郎氏の人気の影響もあり、同氏は相変わらず年配の女性の間で支持されている。

 最近では、石原氏が「数を数えられないフランス語は国際語として失格」と発言したことを受けて、フランス語の教師らが同氏を訴えている。

 写真は8日、都知事選投票所に到着し、記者団に向かって手を振る石原都知事。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO