【アルル/フランス 6日 AFP】内気なフランス人女性Marie Barceloさんは12歳の時、初めて牛と闘った。闘牛場で牛を殺したのは16歳の時。そして19歳の今、彼女が新たな戦いを挑む相手は「闘牛士の世界」極めて閉鎖的な男の世界。Marieさんは復活祭を迎える今週末、国内でもトップレベルを誇る闘牛の試合に初出場する予定だ。

 

■女でも闘牛士になれる
 
 「闘牛場に入ると生き生きします」とMarieさんは語る。480-600kgもの体重を持つ雄牛が、闘牛場に入る直前はパニック状態に陥るものの、牛を見た瞬間すべての恐怖感が消え失せるという。「それは神聖な瞬間です。心の中の偽りがはぎ取られ、真実と向き合うのです。」

 フランス南部の都市アルル(Arles)にある古代ローマ時代の円形競技場では、フランスで最も大規模な闘牛の試合が開催される。Marieさんは6日、この競技場で初の試合に挑戦する。

「闘牛士になるには数多くの困難を乗り越えねばなりません」と話すのは、ニーム付近の円形競技場で働く闘牛専門家Jacques Teissier氏。「さらに、闘牛の世界は未だ極めて男性優位の社会。女性にとっては一層厳しいはずです」

 ところがMarieさんは、まったく動じない様子。「闘牛はまさに男の世界ですが、クリスティーナ・サンチェス(Christina Sanchez)のように、女性でも闘牛ができることを証明した人もいます。」

 サンチェスは、1990年代に華々しい活躍を見せたスペインで最も有名な女性闘牛士。しかしながら、男性闘牛士の多くが彼女と同じ試合に出ることを拒否したことから、サンチェスは失意のうちに引退したと言われている。フランスには、正式な闘牛士となるための認定試験に合格した女性はまだ一人もいない。

「(見習いの闘牛士になる)試験については、特に問題ありませんでしたが、正式な闘牛士の試験はもっと難しいはずです。でも試験を受ける心構えはできています」とBarceloさんは語る。

 古典的な闘牛では闘牛士が槍士の助けを得て雄牛6頭を次々と殺す。まさに男性的な力を誇示するための見せ物だ。だが、Marieさんのコーチを務める元闘牛士のPaquito Leal氏によると、スペインでは闘牛界が変わりつつあり、大勢の女性が参入しているという。

 
■全ては闘牛士になるため

 Marieさんは、アルル東部で牧場を営む闘牛好きの両親のもとに生まれた。その闘牛への情熱は、幼い頃からすでに芽生えていたという。

 父親のMichelさんは当時を振り返り、こう語る。「私が飼っていた牛を相手に闘牛のまねごとをしていると、それを見た娘が『わたしにもやらせて』と言ったんです。まだ12歳でした。まったく怖がっていませんでしたよ。」

 2003年末、Marieさんはニームの闘牛学校に入学。学校で初めて牛を殺した時は、「とても感激した」と言う。闘牛反対派からは、「闘牛は野蛮で動物を虐待する行為」だとの批判や、「闘牛士が牛を愛しているというのは嘘だ」といった主張もあがっている。

 しかしながら、Marieさんはきっぱりと言う。「闘牛士は牛を心から愛しています。だからこそ、その勇気と威厳を闘牛という形で示す手助けをしたいと思っています。名もない牛として食肉処理場に送るのはかわいそうです。」

 Marieさんは闘牛士としては珍しく、高校を卒業しているが、闘牛に専念するため大学は中退した。現在はアルルの闘牛学校に在学中。スペインでは、闘牛の試合も数回経験がある。社交的な活動は一切控え、毎日厳しい訓練に励んでいるという。「彼女のおかげで授業のレベルが上がりましたよ」とLeal氏は語る。

 また、Marieさんは雑用をこなして収入を得ている。闘牛士として生計を立てられるのは世界でもトップクラスのわずか50人ほど。それを十分承知でこの世界に入った。

 
■称賛すべき勇気と情熱

 彼女の両親は、夢を追い続けるMarieさんを精一杯応援している。18歳の誕生日には、闘牛士用の衣装を贈った。Marieさんが闘牛の試合に出るたび不安で一杯になるが、彼女の情熱を認めているという。

 Marieさんは以前スペインで短期訓練を受けた際、現在世界で最も有名なモランテ・デ・ラ・プエブラ(Morante de la Puebla)とセバスチヤン・カステジャ(Sebastian Castella)の二人からその勇気を称えられた。Marieさんはこれからの仕事の契約を得るためにも、6日の試合でベストを尽くさなければならない。試合当日闘牛場に入る際、彼女が「お守りの呪文」として唱えるのは、尊敬する2人の闘牛士からの言葉だという。

写真は、アルルの闘牛場でトレーニングをするフランスの女闘牛士Marie Barceloさん。(3月15日撮影)(c)AFP PHOTO/BORIS HORVAT