【オスロ/ノルウェー 6日 AFP】ノルウェーの復活祭(Easter)には毎年、死体の姿と鮮血の匂いがまとわりつく。この静寂な国で人々は昔から復活祭のシーズンには、スリル満点の推理小説と共に部屋にこもる。


■犯罪に染まるスウェーデン
 
 チョコレート・エッグを届けにイースター・バニーが飛び跳ねてやってくる復活祭のイメージからは程遠い、いうまでもなくおかしな習慣ではあるが、同国の復活祭の休暇は犯罪に染まる。

 人々のスリルへの欲求を満たすために書店には探偵小説が溢れ、テレビでは犯罪ドラマのシリーズが放送され、新聞は特別な読み物を掲載するのだ。

 牛乳パックの裏にまで、謎解きが必要なミステリーがある。

 「チョコレートバーやオレンジと並び、推理小説は休暇に入るノルウェー人のリュックサックの中で特別な場所を獲得しています」このテーマの専門家であるジャーナリストのNils Nordbergさんは語る。

 完全にその世界に没頭するために、イースターの推理小説は、スキーを履いてしかたどり着くことの出来ない、人里離れた小屋で心地よい暖炉の火の中読まれるべきだという。

 「理想的な環境です。全てから隔離された山奥です。風が吹き荒れる外には雪が降っています。(こんな状況で)ちょっと背筋を凍らせるようなものほどぴったりなものが他にありますか?」Nordbergさんはいう。

 鳥肌を立てることはイースターで自然なことだというのは広告会社に勤める35歳のBirgitte Lundさん。

 「私が9歳だった頃、家族でシャレーに行けば、国営放送の30分の子供番組と犯罪ドラマの特別シリーズしか観ることは許されなかったわ」

  
■イースターの時期になぜ推理小説?

 流血劇など珍しいノルウェーがなぜ、イースターの時期には謎解きに夢中になるのか?

 広く認められている推論によると、この習慣は1923年にマーケティング戦略の結果として始まったとされている。

 新作小説は秋にしか出版されないという伝統を打ち破り、出版社Gyldendalは2人の若い作家によるイースターを舞台にした本「The Train To Bergen Was Robbed Last Night」をイースターのホリデーシーズンに売り出した。

 ニュース記事に似せられた広告が数刊の新聞の見開きに載せられ、広告だと気づかなかった読者らは衝撃を受けた。

 このアイディアはあっという間に他の出版会社にも広がり、そして推理小説は復活祭のホリデー中に楽しめる数少ない娯楽の一つとなった。

 「この時代、カフェやレストラン、映画館を始めとした全ての施設は、自己反省と懺悔のための時間と考えられていたイースターの時期には閉められていました。ラジオは、もちろんテレビなんてものもありませんでした。でも本を読むことは出来たのです」Nordbergさんは語る。

 そしてイースターの推理小説は生まれた。それと共に、Jo NesboeKarin Fossum、 アンネ・ホルト(Anne Holt)やユン・ミシュレット(Jon Michelet)を筆頭とした一連の有名推理小説作家が登場してきた。

 7編のスリラー小説も書き上げた社会科学者のJan Mehlumによると「このジャンルは確立され、尊敬を集めているので知識人たちでさえも、推理小説を読んでいると赤面することなくいえる」という。

 
■時代と共に変化する習慣

 時の流れと共にこの習慣は変化してきた。質素な小屋は、より快適なものになり、孤立していた小屋は山腹に出来た小さな村によりそれほど世間から隔離されなくなり、ノルウェー人は冬の小屋よりも日差しが降り注ぐ旅行地を選ぶようになった。

 しかしながら伝統は続いている。

 「推理小説はイースター休暇の一部です」オスロの本屋で良質なスリラー小説を買い込む50歳のAnniken Dingsgoerさんはいう。

 「私が小さかった頃、父はJean Valjeanを私たちに読んでくれました。それからというもの私は、一生を推理小説を読んで過ごしてきました」P・D・ジェイムズ(PD James)、ロバート・ウィルソン(Robert Wilson)とミネット・ウォルターズ(Minette Walters)のファンだというDingsoerさんは語る。

 しかし、Dingsoerさんが一つだけ残念に思っているのは、彼女の子どもたちはエルキュール・ポアロ (Hercule Poirot)よりもハリー・ポッター(Harry Potter)を好むということだ。

 写真は、オスロにある書店に並ぶ推理小説の数々(2007年4月4日撮影)。(c)AFP/DANIEL SANNUM LAUTEN