【シカゴ/米国 6日 AFP】たった1つの遺伝子の突然変異が、チワワからマスチフまでさまざまなイヌの大きさを決定する、という研究が5日、米科学誌「サイエンス(Science)」に発表された。

 イヌは、進化の過程で比較的短い期間に種が分化しにもかかわらず、犬種によってサイズが著しく異なり、ほ乳類の中でも類を見ない多様性を誇るが、その理由はこれまで解明されず、科学者らの当惑の種だった。

■小型犬は遺伝子の突然変異で生まれた

 今回発表された研究は、この謎は遺伝子の突然変異によって説明できるとしている。すなわち、突然変異した遺伝子によって小型犬が生まれ、長年にわたって種の淘汰(とうた)が進むなかで、短期間にこの変形遺伝子がさまざまな犬種に普及したのだろうというのだ。

 また、この遺伝子によって、人間が個体によって大きさが違うことも説明できるのではないかと、期待を寄せている。

 同研究は、米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の研究員らが主導し、米ユタ大学(University of Utah)、コーネル大学(Cornell University)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California,Los Angeles)、ペット栄養学で高名な英ウォルサム研究所(Waltham Centre for Pet Nutrition)など、米英の複数の大学や研究機関が参加。研究に使用したDNAに変異サンプルは、米製菓・ペットフード大手マースインコーポレーテッド(Mars Inc.)が提供した。

 マース所属の遺伝子研究者で共同執筆者のPaul Jones氏は、「イヌ科の遺伝子研究上の画期的な研究だ。小型犬をつくりだす主要な遺伝子をはっきりと特定できた」と話した。

 研究チームが分析したDNAサンプルは、チワワやマルチーズ、ポメラニアン、パグ、ペキニーズといった小型犬から、グレートデン、セントバーナード、アイリッシュ・ウルフハウンドといった大型犬まで、143品種3000匹に上る。

■インスリン様成長因子1が体形を決める

 分析の結果、体重9キロ以下のすべてのイヌ、すなわち小型犬種全般において、「インスリン様成長因子1(IGF-1、insulin-like growth factor 1)と呼ばれる遺伝子に微小な変異が認められた。IGF-1はヒトや他のほ乳類にもあり、生まれてから成長するまでの体の形成にかかわる。小型犬では、この遺伝子の働きを制御するDNAに変異があり、イヌの体形が大きくなるのを抑制しているという。

 研究チームは、異系や生息地の異なる犬種に共通する遺伝子パターンを特定。この小さな遺伝子変異が起きたのは、1万2000年ほど前のことではないかと推定している。

 研究に参加したユタ大学の生物学者、K. Gordon Lark教授は、変形遺伝子について「小型犬の歴史と同様、古い歴史を持っている」と話した。
「イヌは、オオカミから派生した。変形遺伝子がすべての小型犬から発見された以上、派生時または家畜化される過程で遺伝子の変異が起こったとしか考えられない」

 家畜化されたことで、イヌは急速に多様化し、地域ごとの犬種が生まれた。研究チームは、繁殖にあたって室内飼いが容易で、売買の際の移動もしやすい小型犬が好まれる傾向があったとみている。

 さらに、今回の発見が適用されるのはイヌ科にとどまらないのではないかと推測する。

 NHGRIのElaine Ostranderがん遺伝学首席研究員は、「遺伝子がイヌのサイズをコントロールする仕組みが分かれば、ヒトの体格が遺伝的にどのようにつくられているのか、何らかの発見があるのではないだろうか。体の構造や行動パターン、疾患など、研究で得たほぼすべての知識は、ヒトの健康やヒト生物学に関する理解を深める一助となる」と述べた。

 写真は、ニューヨークのセントラルパーク(Central Park)で早朝、イヌを散歩させる人。(2006年12月26日撮影)(c)AFP