【ハリウッド/米国 25日 AFP】素晴らしいが残酷で、血なまぐさい映画「ディパーテッド(The Departed)」が25日、第79回アカデミー賞で作品賞を受賞し、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督の見事な復活を飾った。

■作品・監督賞のダブル受賞

 プロデューサーのグレアム・キング(Graham King)は息を切らしながら壇上に上がり、米映画産業で最も権威ある作品賞を受賞した。

 「ここに立てるとは、マーティン・スコセッシがオスカーをとったこの場に立てるとは、なんと喜ばしいことだろう」
キングは作品賞の少し前に行われた、スコセッシ監督の監督賞初受賞に触れて喜びを語った。

■出口のない裏社会の物語「ディパーテッド」

 スコセッシ監督はバイオレンス映画「ディパーテッド」について、逃れられない世界に囚われた者たちの物語だと説明する。「ディパーテッド」は2002年の香港映画「インファナル・アフェア(Infernal Affairs)」のリメイク版。

 映画はシンプルだが効果的な設定にした。レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)演じるビリー・コスティガン(Billy Costigan)は覆面捜査官で、ジャック・ニコルソン(Jack Nicholson)演じるフランク・コステロ(Frank Costello)率いるボストンの犯罪集団に潜入する。マット・デイモン(Matt Damon)演じるコリン・サリバン(Colin Sullivan)は地元警察の刑事だがコステロのスパイ。

 ドラマはコスティガンとサリバンがそれぞれの潜入先で、スパイがいることに気付くところから始まり、やがて互いの正体を明らかにしようと激しい争いになる。

■ギャング映画を再び撮った理由

 皮肉にもスコセッシ監督は「ミーン・ストリート(Mean Streets)」「グッドフェローズ(Goodfellas)」「カジノ(Casino)」といったかつて監督したジャンルに戻るのをためらっていた。

「もうギャング映画を撮るつもりはなかった」が、スコセッシ監督は脚本家のウィリアム・モナハン(William Monahan)のために脚本を読むことだけを承諾したと明かした。

「最初の26ページを読んで思ったんだ、『一体何が起きてるんだ?』って」
スコセッシ監督は「信頼、裏切り、だまし合い」の話だと気がつくとストーリーに夢中になった。

 裏社会の設定は監督になじみの領域だが、監督は裏社会との関係を否定する。
「ニューヨークの西側やアフガニスタン。どこにでもあり得る」「まさに人間の物語だ。宣誓布告のない戦場で身動きがとれなくなった者たちの話だ。彼らに出口はない」
「彼らは必死に出ようとするほど、深く深くその世界にはまり込んでしまう。1人か2人良心をもった奴もいるが、他はそのままの奴らだ」

■オールスター出演

 オールスター出演の「ディパーテッド」は、記憶に残る演技をその映画のなかで見せてくれる。ディカプリオはオスカーを惜しくも逃したスコセッシ監督作品「アビエイター(The Aviator)」「ギャング・オブ・ニューヨーク(Gangs of New York)」に続いて同監督と組み、苦悩する二重スパイを迫力ある演技で演じた。

 ジャック・ニコルソン演じる精神異常的なマフィアのボスは、彼が今まで演じた悪役の中で一番の当たり役になった。マーク・ウォールバーグ(Mark Wahlberg)、マーティン・シーン(Martin Sheen)、アレック・ボールドウィン(Alec Baldwin)は小さい役ながら重要な役割を演じ、複雑なストーリーを解き明かしていく。

 ニコルソンにとってスコセッシ監督映画は初出演。スコセッシ監督はコステロ役に現実離れした演技のできる人物を探していた。

「ジャックと私は30年来の知り合いだが、どういうわけか一緒に映画を撮ったことがなかった」とスコセッシ監督はいう。

「それで彼がコステロ役に興味があるかみてみるのも面白そうだと考えた。彼の目立つ要素がほしかった。時間はかかったかもしれないが、待った甲斐はあった」

写真は授賞式で作品賞の受賞が決まった瞬間の様子。妻と抱き合うスコセッシ監督とそれを見守るレオナルド・ディカプリオ。(c)AFP/Getty Image Kevin Winter