【バグダッド/イラク 25日 AFP】25日(日本時間で26日朝)に開催される第79回アカデミー賞授賞式。現在、ドキュメンタリー長編部門にノミネートしている2作品に注目が集まっている。その作品とは、イラクについて米国人監督が撮ったドキュメンタリー映画である。イラク出身の映画監督ハミッド・アルマルキー(Hamid Almaleky)氏は、これらの作品がどのように受け入れられるのか受賞の行方も含め、気がかりだという。

■米国人監督によるイラクに関するドキュメンタリー

 今回、ノミネートされている作品は共に米国の監督が手掛けたもので、ジェームズ・ロングリー(James Longley)監督の「イラク・イン・フラグメンツ(原題:Iraq in fragments)」とローラ・ポイトラス(Laura Poitras)監督の「マイ・カントリー、マイ・カントリー(原題)」。どちらも米国のイラク政策を批判的な視点から描いている。このことについて、アルマルキーはイラク人がこのようなドキュメンタリーを撮ることができないのは悲しい事だと述べた。

 「イラク人の監督は皆、自分の国についてありのままを伝えるドキュメンタリー作品を作りたいと強く思っています」と、述べた同氏は2004年以来、亡命先であるシリアの首都ダマスカス(Damascus)に暮らしている。

 「しかし、イラク人の監督にとって、それは大変危険な事なのです。真実を伝えることは禁じられており、この状況を変えることは誰にもできないのです。これほど悲しいことはありません」と、付け加えた。

■イラク人では踏み込めない部分を映画に

 今回、ドキュメンタリーを手掛けた2人のアメリカ人監督は、地元の人々が決して立ち入ることのなかった境界に踏み込んだ。その功績が称えられるか否かは、このアカデミー賞受賞にかかっている。

 「イラク・イン・フラグメンツ」は、現地で2年間を過ごしたロングリーがおよそ300時間をロケに要し、米国の政策がどのような影響をイラク国民の生活に及ぼしたかを捉えた作品だ。

 イラクに住むスンニ派イスラム教徒、シーア派イスラム教徒、そしてクルド人の生活をそれぞれ30分間かけて見せるその映像は、戦争の恐怖におびえる人々の姿を露わにしている。

■よりリアルな問題に焦点

 「この作品を観れば、国民のほとんどが闘争には参加していないということが理解できます。アメリカよりもイラクの人々と、彼らが直面している困難に焦点を当てました」と、ロングリー監督は最近のインタビューで語っている。

 もう一つの「マイ・カントリー、マイ・カントリー」は、2005年の選挙に出馬したスンニ派の医者に焦点を当て、一般のイラク国民の前向きな姿勢を見せた作品だ。

 ポイトラスは、米国で繰り広げられてきたイラク国民を無視した議論に苛立ちを覚え、この作品に取りかかったという。監督本人は、この作品を「占領への批判」と呼んでいる。

 「実際に戦禍に巻き込まれている人々の視点に立って、状況を理解したかったのです。これによって、政治的観点からも物事が明らかになると信じています」と、述べた。

■ドキュメンタリー映画で国外追放

 アルマルキー監督は、この人の功績を高く評価している。「イラクではとても危険なことですが、このうちのひとつでも賞を取ってくれれば私も大変嬉しく思います」と、アルマルキー監督は語った。

 現在37歳のアルマルキーは、2005年イラクで起こったレイプの惨劇を撮したドキュメンタリーを手掛け、カイロ国際映画祭(Cairo International Film Festival)で監督賞を受賞している。その他一連の作品も高く評価されたが、そのせいで国を追放されることとなってしまった。イラクの詩人や、グローバライゼーションをテーマにしたテレビドラマシリーズに加えてアニメ作品も手掛けてきた。

 しかし、彼にとって重要なのはやはりドキュメンタリー作品の制作だろう。現在、アルマルキーは100万人に及ぶイラク難民が、シリアに非難していく様子を描く為、自身で設立したプロジェクトを進めている。

■現実を世界に向けて発信

 「イラク人とシリアの人々の関係、そして亡命を選んだイラク人についての作品を作っています」と、述べた。2004年にイラクで撮影された2つの作品は、公開までに時間を要した。1つ目は、「アンダーエクスポージャー(原題)」と名付けられた作品で、イラク出身の監督オデイ・ラシード(Oday Rasheed)が米国の介入によって掻き乱されたイラク国民の生活を捉えたものである。

 もう1つの作品は、「ドリームス(原題)」だ。こちらも同じくイラク出身の監督モハメド・アル・ダラジー(Mohamed Al-Daradji)が、サダム・フセイン(Saddam Hussein)に続き、米国の軍事介入で夢を打ち砕かれたイラク国民の失望を映し出した作品だ。アルマルキー監督は、イラクの映画産業は実質的に俳優も技術者も、監督も、プロデューサーも全てシリアに移されたと言う。

「今後は、この地(シリア)でイラクの現状を伝えることに貢献していくつもりです」と、付け加えた。

写真は、今回ノミネートされている作品『イラク・イン・フラグメンツ(原題:Iraq in fragments)』のジェームズ・ロングリー(James Longley)監督。(c)AFP/MYCHELE DANIAU