【大阪 20日 AFP】世界第2位の経済大国日本を支えてきた団塊の世代の松村功さん(60)は、本来なら悠々自適の定年人生を送るはずだった。しかし、松村さんは今、大阪釜ヶ崎地区で今夜の寝場所を求め、狭く寒いホームレス向け宿泊施設の順番を待つ列に並んでいる。

■日本の貧困を象徴する「釜ヶ崎地区」

 釜ヶ崎地区は、夜もネオンが輝く商店が立ち並ぶ繁華街の目と鼻の先に位置する。しかし、その間には天と地ほどの差がある。日本第2の大都市、大阪にありながら貧困を象徴する釜ヶ崎は、いわゆる「スラム街」ともいえる街だ。毎晩、1000人を超えるホームレスが寝場所を求めて列をつくる。

 日本の他地域と同様に、ここでもホームレスの高齢化が進み、路上生活を送る彼らの生活状況は益々厳しいものとなっている。夜明け前の釜ヶ先では、連日、日雇い労働者を募集する業者の到着を待つ人々で数百人の列ができる。工事現場での仕事が最も多く、日給は平均1万円。よりきつい肉体労働などには日当に上乗せされる場合もある。

 一泊1200円の簡易宿泊所で過ごせば、食費も含めた一日の生活費としては何とか間に合う額だ。簡易宿泊所には、通常、テレビ、冷蔵庫、暖房設備が整っている。しかし、肉体労働には不向きな年配の労働者には、日雇いの仕事を得て、簡易宿泊所に泊まる快適な生活などは夢に過ぎない。

■生活保護に頼る高齢のホームレスが急増

 1990年初頭にバブル経済が崩壊。公園や空き地などに野宿者の青いビニールシートのテントが見られるようになるまで、日本ではホームレスの存在は認識されてこなかった。

 2003年の「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、日本全国の路上生活者総数は2万5000人、平均年齢は55歳だった。そのうち大阪府の路上生活者数は6600人だった。しかし、その後の経済回復やホームレスの自立支援対策などにより、大阪府によれば、その数は現在、5000人以下に減少したといわれている。

 西成労働福祉センター職員で日雇い労働者問題を担当する有村潜さんは「1999年以来、約6000人のホームレスが、野宿生活から一般住居に移ることができた」と話す。有村さんによると、「住所」を得た65歳以上の日雇い労働者については、年金の受給資格を得て生活は向上しているという。

 しかし、改善がみられたのは65歳以上の労働者のみで、55歳から64歳の日雇い労働者の生活は全く改善していないと有村さんは強調している。

 大阪市健康福祉局生活福祉部ホームレス自立支援課の古屋和夫課長は「多くのホームレスが高齢となり、病気を抱えている者もいる。一方、生活保護に頼るホームレスが急速に増えているのも近年の傾向」と語る。

 また、生活保護は生活困窮者にはありがたい制度だが、喜んでばかりもいられない。全人口の約2割が65歳以上と高齢化現象が進む日本で、生活保護は赤字財政を圧迫する要因の1つだ。

■簡易宿泊所を増設、しかし公園を好むホームレスの実態

 また大阪市によると、ホームレスの多くは、一般市民らからは歓迎されなくとも、公園での野宿を簡易宿泊所よりも好む傾向にあるという。

 簡易宿泊所を増設し、ホームレスの就職を支援する「自立支援センター」を設置したにもかかわらず、この傾向に変化がない。大阪市は、公園や橋脚などで「自由な生活を好む」ホームレスが多いことがその理由ではないかと推測している。

 大阪のホームレスの多くは、「市の取り組みは非現実的」と批判的だ。「行政当局は、危険の多いホームレスの生活の現実が見えていない」という。

 大阪市内の公園でテント生活を送り、この公園を住所とする転居届の受理を求める訴訟を起こした山内勇志さん(56)は、「行政担当者は現実がわかっていない」と訴える。この裁判で山内さんは、大阪地裁の一審判決で勝訴しながら、2007年1月の大阪高裁控訴審で逆転敗訴している。

 しかし、路上生活には、真冬の寒さのほかにも、また別の危険が伴う。隣接する兵庫県姫路市では、2006年3月、河川敷で生活していたホームレスの男性が、高校生たちにより焼死させられる事件が起きている。

■若者もホームレス予備軍に

 一方、近年では、親世代のような終身雇用を望まない若者が増えた結果、単発の仕事に従事する者や経済的に親に依存する者の増加傾向が懸念される。

 西成労働福祉センターの有村さんは「一旦、親からの援助がなくなれば、彼らは生活に行き詰まり確実に路上生活者となるだろう」と危惧する。

 日本人は、ホームレスの苦境に対し、無関心だとしばしば非難されてきた。一方、各種の世論調査によると、拡大する貧富の「格差」に懸念を持つ人々は確実に増えている。

 「今夜も、何も変わりはしない」。松村さんは力なく言い残すと簡易宿泊施設に向かった。施設の2段ベッドでは、1缶の乾パンが松村さんを待っている。

 写真は、釜ヶ崎のホームレス向けの簡易宿泊施設で話をする有村さん。(2006年12月4日撮影)(c)AFP/Daniel ROOK