【米国 15日 AFP】1988年ソウル五輪、陸上・男子100メートルで世界記録となる9秒79を記録し優勝を飾るが、ドーピング検査で陽性反応が検出され金メダルを剥奪されたカナダのベン・ジョンソン(Ben Johnson)氏は、コーチとして陸上界に復帰し、ドーピングのことには触れずに将来を期待される10代のアスリートの士気を鼓舞している。

■教え子には自身の過去を伝えず

 ジョンソン氏は「私はただ若い選手を手助けするためだけにここにいる。練習の仕方やモチベーションの高め方を提案しているんだ。それだけだよ。ドーピングに関することは選手には話していない」と国内紙USAトゥデー(USA Today)に語っている。

 ジョンソン氏は1988年ソウル五輪でドーピング反応が検出され2年の出場停止となった後、1993年に行われた検査で再びテストステロンの数値が高かったことにより永久追放処分を受けている。

 また同紙で世界反ドーピング機関(WADA:World Anti-Doping Agency)のリチャード・パウンド(Richard Pound)会長は「もしきちんと反省しているとしたら、態度や行動に変化が出てくる。彼が本当に改心しているのなら『私は過去2回、本当にいけないことをした。私のように競技人生を終えてほしくない』と言うだろう」とジョンソン氏についてコメントしている。

■2004年にコーチへ転向して以来、4人の選手を指導

 ジョンソン氏は2004年にコーチに転向して以来、4人の選手を指導しており、9日にドイツのライプツィヒで行われたスパルカッセン競技会2007(Sparkassen Athletics 2007)に、男子60メートルに出場したカナダのBrandt Fralickのコーチとして参加している。

 ジョンソン氏の過去の経歴について、Fralickは「最下位でゴールしたら、急に目の前に報道陣が来て囲まれ続けた。みんな同じことを聞きたがっているんだ。ベン・ジョンソンはずっと尊敬してきた人だった。(一緒に練習し始めて)1週間経った後から、質問され初めて答えているけれど、20年前のことだし、もうどうでもいいことだよ」と同紙に語っている。

 しかし、スポーツ界ではトップスター選手がドーピング疑惑にさらされていることは疑いようもない事実であり、ジョンソン氏と共に活動する選手は陸上界の暗黒の日々を思い起こさせる。

 2004年に定められた競技へのどんな役割をも禁止するという規則は、過去にさかのぼって効力を発揮するものではないため、ジョンソン氏の永久追放処分はコーチ業を妨げるものにはなっていない。このためジョンソン氏はカナダのGavin Smellieらの指導を取ることが許されている。Smellieはジョンソン氏について「彼は私にとってとても大事な人。彼がいなかったら、今自分がどうしているのかわからないよ」と話している。

 写真は、スパルカッセン競技会2007にコーチとして参加したジョンソン氏(2007年2月9日撮影)。(c)AFP/DDP/FLORIAN EISELE