【シドニー/オーストラリア 24日 AFP】ダイバーが病院のベッドで語ったのは、サメのあごからの「脱出劇」だった。

 サウスイースト・コーストのエデン(Eden)付近でダイビングをしていたEric Nerhusさん(41)は、巨大なシロサメにフェイスマスクをかまれた。鼻を骨折し、ウエットスーツもずたずたに引き裂かれ、頭、胸、背中に重傷を負った。

 様子を目撃していた友人のダイバーDennis Luobikisさん(53)は24日、「文字通り頭を飲み込まれた状態だった」と報道陣に語っている。

 Nerhusさんは鉛製のウェスト・ベストを着用していたため致命傷には至らなかったが、サメが自分の頭を「吐き出す」まで、持っていたアワビ採集用の道具でサメの頭を刺し、「殴り続けた」という。

 Luobikisさんは深さ9メートルの海中から、ハウ岬(Cape Howe)付近で水面へ上がった後、息子のマーク君が乗ったボートに救助された。マーク君はテレビの取材に対し、父親が「助けて、助けて、サメがいる」と叫んだと語った。「ボートで近づくと海に真っ赤な血が広がっていた。必死で引きずり上げた。『岸へ連れて行ってくれ、岸へ連れて行ってくれ』と叫んでいた」。

 付近でボートに乗っていたダイバーたちが最初に救助に駆けつけ、無線で危機を知った観測機が急行、救援用ヘリコプターに救急救助を要請、Nerhusさんは Wollongong 病院へ搬送された。病院の広報担当によると、Nerhusさんはショック治療と輸血、顔面手術などを受けた。

 国営通信AAPの取材に応じた医師らによると、襲ったサメは全長3メートルの大きさで、Nerhusさんは「すっかり口の中に入れられた」状態だった。

 友人のLuobikisさんは、「彼は強い男だし体も頑健だ。しかし、“魚のエサ”になるかもしれない事態は、よほどの不屈の人間にとっても大変な状況だ。(サメの襲撃から生還することは)宝くじで大当たりをするよりも、ずっとラッキーだったと思う」と述べている。またNerhusさんがベストによって致命傷を逃れたことについて、「サメの襲撃に(ベストは)有効だとみんな常に思っていたが、それが証明されたのは初めてだ」と語った。

 Luobikisさんによると、別名「ホワイト・ポインター」とも呼ばれる大型のシロサメは、今年の異常な低水温の影響で、最近は周辺地域でよく確認されているものの実際に襲撃されることは非常にまれだと言う。「エデンでダイバーのプロとして36年間、潜ってきたが、これまでシロサメの襲撃は聞いたことがない」。

 オーストラリアでは2000年以降、サメの襲われ10人が亡くなっている。最近では1月になって21歳のSarah Wileyさんが、イーストコーストのノース・ストラドブローク(North Stradbroke )島の観光ビーチで犠牲となった。

 写真は店頭に飾られたシロサメの模型に手を入れてみせる店員(2006年8月17日撮影)。(c)AFP/Laurent FIEVET