【ヘルシンキ/フィンランド 22日 AFP】フィンランドでは、サウナが国民的娯楽である。ビジネスマンも、政治家も、交渉が難航した場合にはサウナに行き、リラックスしてた中で議論を続けるという習慣がある。この「サウナ外交」はしかし、効率アップを求める声や女性のめざましい政財界への進出に伴い、廃れつつあるという。

■「サウナ外交」の障害となってきた女性の社会進出

 タルヤ・ハロネン(Tarja Halonen)大統領(女性)の報道官(女性)は、AFPに対し、「サウナ外交は、(サウナに入る)時間がないため、行われなくなってきている」と語った。

 「政財界の幹部クラスには、草の根政治が主流であった30年前と比較して、テクノクラート(専門知識を持った人)が増えた」と、サウナ愛好家でもあるフィンランドのオリ・レーン(Olli RehnEU拡大委員は、サウナ外交の衰退の原因をこのように分析した。

 また同氏は、「ヨーロッパの人々は、サウナ外交を拷問の一種のように考えているが、それは間違いだ。サウナ外交は、リラックスした状態でじっくり考えることができるという効用がある。何より、プレッシャーを感じずに交渉に臨めるという点がすばらしい」と擁護する。

 しかし、「男女同権」がサウナ外交の障害になっていることを認め、「サウナが男女別になっている現状では、男女間のサウナ外交は難しいですからね」と述べている。

 フィンランドのサウナは、通常は裸で入るため、男女別になっている。「混浴サウナ」もあるが、これは親友や家族の使用に限られている。サウナは、都市部の一戸建てやアパートでは建物内につくられ、郊外の観光地などでは、観光客向けに小さなサウナ小屋が建てられるのが普通である。

 男性が「大酒飲みのマッチョ」と形容されるような社会にあっては、サウナはつい最近まで、女性を従属的な立場に固定する1つの手段であった、と、ある企業幹部のKirsi Seppalainen氏(女性)は語る。

 「経営者会議で紅一点という時、男性たちがサウナ外交を繰り広げている間に、私は他の方法を模索するしかなかった。サウナ外交での決定事項を、後になってから聞かされた、ということも時々ありました」しかしながら、Seppalainen氏は「そういった状況も変わりつつあります」と語る。

 政策を話し合うために、同僚とのサウナ外交を頻繁に行うという緑の党(Greens Party)の国会議員、Heidi Hautala氏も、「変化は起きている。その理由は、政財界の重要なポストに女性が就くことが多くなったからです」と語る。「サウナ外交という古いスタイルに固執する人々もいますが、それが時代遅れであることを、じきに悟ることになるでしょう」

■信頼関係を築くには、裸のつき合い

 フィンランドでは、仕事上の付き合いから1歩進めて、互いに打ち解けるには、サウナで共に汗を流すのが良い方法だと考えられている。

 そのメカニズムをLasse Lehtinen欧州議会議員は「裸同士で議論するというのは、互いに防御を和らげるための社会的な行為。裸の付き合いの中で取り交わした約束はなかなか破れませんから」と説明した。

 サウナ外交は、かつては「重要な契約を交わす前の不可欠な要素」であったが、今や「契約を結んだ後」で行われることが多いという。

 ホテルチェーン「Palace Kaemp Group」のTiia Sammallahti氏は、「顧客と契約を結んだあと、リラックスした雰囲気の中で、互いをよく知るためにサウナに入るということではないでしょうか」と説明した。

■諸外国との交渉でも、「サウナ外交」は生き残るか

 一方、Lehtinen欧州議会議員は、グローバル化がサウナ外交を難しくしている、とも指摘している。裸を受け付けない文化的背景を持つ人物との交渉も増えてきているためだ。

 オッリ・レーン(Olli Rehn)EU拡大担当委員は、2006年夏に家族を伴って非公式にフィンランドを訪問したトルコのアリ・ババジャン(Ali Babacan)財務相と、トルコのEU加盟問題についてサウナ外交を行ったことを明らかにした。「サウナは、彼とその息子に大ウケだったよ」とレーン氏。しかしながら、肝心の話し合いは実りあるものではなかったようだ。トルコのEU加盟問題は、ここ数か月間、全く進展が見られていない。

 ハロネン大統領は、2005年のウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領が訪問した際、国賓をサウナに招くという、長きにわたる伝統を初めて破った。報道官は、「ハロネン大統領はサウナは好きですが、外国の要人とは一緒に入らないというだけのことなのです」と語った。ちなみにプーチン大統領は、この時、ハロネン大統領の夫と一緒にサウナに入ったとのことである。

 写真は、ヘルシンキでサウナに入る人々。(c)AFP/SEPPO PUKKILA