【シドニー/オーストラリア 16日 AFP】イスラム教徒の女性として好ましい姿のまま、泳ぎたいという願いが強く感じられるオーストラリアのビーチ。デザイナーのAheda Zanettiがイスラム教徒の女性に向けた世界初のツーピース水着、「ブルキニ(アフガニスタンなどで着用されている、顔から脚まで全て覆って女性の体を隠す衣服ブルカとビキニを掛けている)」をデザインした。

■実用的かつ画期的な水着の登場

 今までイスラム教徒向けの水着は存在していたものの、Zanettiは軽量で頭から踝まで覆い、ベールの役割をする頭部のカバーとツーピースに合わさった実用的なコスチュームを発表したのだ。

 紐のようなビキニと露出度が高いワンピース水着の女性で溢れかえるオーストラリアのビーチで、「忘れられていた需要もマーケットも同時に満たす慎み深いビーチウェア」が誕生した、と彼女は話す。「沢山の女の子や女性が、泳ぐことも含めスポーツに参加できないままだったのです。」と、シドニー南西部にある彼女の店でAFPの取材にこう述べた。
 「スポーツに参加したいと願っても、身につけるのに適切なものが本当に無かった。そして女性達がベールか何か体を隠す物を着てスポーツをしても素材や構造において、運動するのに適していないものばかりだったのです。」

 Zanettiは偶然デザイナーの道を選んだ女性だ。美容師として経験を積み、最も保守的なイスラム教徒の女性が身につけるブルカを着たことは一度もなかったし、スポーツウェアのデザインを始めるまでベールを着けたことは一度もなかった。

■イスラム教徒向けのスポーツウェア市場

 39歳で4人の子供の母であるそんな彼女が、イスラム教徒向けのスポーツウェア市場があるのではないかと気がついたのは、ヘジャブ(イスラム教徒の女性が身につける髪の毛を覆うスカーフ)を被った姪がネットボール(バスケットボールをベースにした女性向けに作られたスポーツ、主にオーストラリア・ニュージーランド・イギリスなどで競技されている)をしているのを見た時だった。

 「ベールとスキビー(長袖でハイネックのシャツ)、それにパンツとネットボール用のジャージを重ねて着してスポーツをしている彼女を見たときに思ったんです、『まあ、こんなものよりもっと良い物があるはずだわ』って。」
レバノン生まれのZanettiは当初地味なシャツにベールを合体させた、女性用普段着を作っていた。その後、水着やその他のスポーツウェアを作り始めることとなったが、モットーは常に「地味が一番」だった。
 
■新しさ故の激しい批判

 しかし、この商品はオーストラリア国内では議論の的でもある。2005年12月、シドニーのクロナラビーチ(Cronulla Beach)で若い白人男性が中東の若者集団に対し「ビーチを返せ」と抗議した事件は騒動を引き起こした。クロナラの騒動は、国内で最もひどい人種差別的行為だった。そしてこの出来事はこのマルチエスニック国家に潜んだ人種差別主義を露呈し、論議を呼んだ。

 「今日でも、ある男性からこんなことを言うメールが届いたりします。『イスラム教徒の女はセクシーなんだから、普通のビキニを着させてやればいいじゃないか。そうすれば俺たちももっとありがたがるっていうのに。』とか何とか。」
同胞であるムスリムからは、彼女がデザインした服は恥さらしだと攻撃を受けたこともある。「オーストラリア内からの電話で命を奪うと脅されたこともあるわ。『もし、お前がまた新聞なんかで宣伝をしたら、ただではおかない・・・。』とね。さらにひどいのは『みんなにブルキニを着せてポルノで使い、十分に恥をかかせてやる。俺にとってはどうでもいい事だからな。』というようなものだった。」

■一方で政府に貢献

 そんなブルキニが素晴らしい結果をもたらしていることも確かだ。政府のプログラムの下、多くの若いイスラム教徒の女性達が、ビーチを監視するボランティアのサーフ・ライフセイバー(人命救助隊員)として訓練を受けている。オーストラリア・サーフ・ライフ・セイビング(Surf Life Saving Australia)は今年2007年に設立100周年を迎えるが、その祝いの印としてZanettiはライフセイバーの伝統的アイコンカラーである赤と黄色のブルキニを作った。

 このブルキニに対する、イスラム教徒女性の反応も様々だ。20歳のMecca Laalaaはブルキニができたからといって、泳げないことには変わりがないと言う。
 「特別な格好をしなければならないというのが、私が泳がない理由です。」と、彼女はAFPに語る。「ブルキニができた今、さらにその気持ちは強まりました。」レバノン人の子孫を持ち、オーストラリアで生まれたMeccaは、イスラムの規範に従った服装でスポーツはできないと言う。

 「長いパンツとコットンのシャツを着てムスリムであることを認知されることによって、スポーツだけでなく、多くの場面で困惑してしまうのです。」
 「ブルキニは体を露出せずに泳ぎたいムスリム女性のためを思って作られたものですが、これでは私たちムスリムにとって逆効果だというのが私の考えです。これではまるで『私を見て、みんなと着ているものが違うだけじゃないの。』と主張しているようで。」

■反対する聖職者に対し、その妻たちは水着を愛用

 昨年、説教の中で節度のない着こなしをしている女性は「剥き出しの肉」のようだという発言をし、激しい批判を買った権威あるイスラム聖職者、シェイク・タージ・アルディン・アル・ヒアリ(Sheik Taj Aldin al-Hiali)氏もブルキニに賛成のようだ。同氏から与えられたブルキニの認可書をZanettiは誇らしそうに見せる。しかしながら彼の発言は全てのムスリム女性の事を考慮したものではない、と彼女は言う。
 「宗教的指導者としては素晴らしい人物だけど、発言するべき人ではないと思うわ。それは彼の仕事ではないしね。でも宗教的リーダーとしては並外れた人よ。」と述べる。他のイスラム教聖職者に関しては、「彼らはブルキニに賛成ではないものの、結局は彼らの奥さん達だって買っているのよ。」とコメント。

 ブルキニを取り巻く様々な議論が引き起こされている中、シドニーのパンチボール(Paunchbowl)にある彼女の店「Ahiida」では国中のみならず世界中から膨大な量の注文を受けている。速乾性が売りのポリエステル製ブルキニの値段は160~200オーストラリアドル(約15,000円~20,000円)。写真は2007年1月12日、オーストラリア・シドニーにて撮影。(c)AFP/Anoek DE GROOT