【ロンドン/英国 7日 AFP】1リットル800ドル(約9万5千円)はくだらない、甘口ワインの王様「シャトー・ディケム(Chateau d’Yquem)」。地球上最も高価な「百薬の長」がこのほど、ジャイアントサイズで登場する。

■2005年ビンテージの「記念企画」、好調な売れ行き

 南西部ボルドー(Bordeaux)地方ソーテルヌ(Sauternes)のシャトー・ディケムが今回限定発売するのは、2005年ビンテージを記念した15リットル入りのネブカドネザル(Nebuchadnezzar、通常の20倍の瓶)。数世紀に渡るシャトー・ディケムの長い歴史でも初めての試みだ。

 ピエール・リュルトン(Pierre Lurton)社長はAFPの取材に対し、「(2005年は)複雑だが、かといって過剰な力強さはなく、甘く繊細で、フレッシュかつエレガントなワインに仕上がった。本当に素晴らしいビンテージだったから、記念に何かをしたかった」と語る。

 シャトー・ディケムでは、ロンドンが拠点のワイン専門商社「Bordeaux Wine Investments」と提携し、1本当たり8625ポンド(約197万円)相当のネブカドネザル入りビンテージワイン100本を製造。さらに、今後のために20本を余分に製造するという。

 なお、ラベル表記とは異なり、瓶詰め作業は実際には2009年まで行われないという。また、ボトルから注ぐにも数人がかりの大仕事になりそうだ。

 Bordeaux Wine Investmentsのロバート・レンチ(Robert Lench)部長は「弊社に割り当てられた50本のうち、すでに41本を売り上げた」と話す。なお、残り50本は米国の系列企業に割り当てられているという。

■シャトー・ディケムが「売れるワケ」

 シャトー・ディケムが熱狂的支持を受ける理由には、いくつかのポイントが挙げられる。

 セミヨン(Semillon)やソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)が育つ110ヘクタールのブドウ畑は、ソーテルヌの中で最高の場所とされている。第3代米国大統領のトーマス・ジェファソン(Thomas Jefferson)をはじめ、多くの元首が買い求めたワインは、完熟まで育ちポトリティス・シネレア・かび(貴腐カビ)で貴腐化したいわゆる「貴腐ブドウ」で作られる。搾り取られる極甘の果汁はごくわずかで、1年当りの製造本数はたったの6万6千本。ボルドーの大手醸造メーカーのわずか10分の1の量である。

 天候と立地、ブドウ品種、製造技術、保存法――これらすべての結晶が数世紀の歴史を経て、秀作を作り上げている。しかし、特大ボトルとなると、需要はいかがなものだろう。

「中身は申し分ないわけだから、需要はあるだろう」と サザビーズ(Sotheby’s)ワイン部門のSerena Sutcliffe氏は語る。

「ただし、こういう特大ものの需要には浮き沈みがある。実際、甘口ワインのネブカドネザルとなると、それほど実用的とはいえない。シャンパンのように比較的少人数でガブガブ飲むものではないから、開けるときには十分に客が集まるっていなければならない。小さなボトルでも時にプレミアがついてしまうのは、そういう訳だからだ」

 従来のラインアップは375ミリリットル、750ミリリットル、1.5リットル、3リットルで、例外的に1982年、6リットルが製造されたのみ。Sutcliffe氏によると、ボトルサイズが大きくなるほど熟成が遅くなり、とりわけ甘口ワインは糖分が保存料の役割を果たすため、通常よりさらに遅れるという。

「こんな買い物をしたら、きっとお孫さんやひ孫さんへの素敵なプレゼントとなるだろう」

■LVMHの参入でさらに「ブランド化」

 シャトー・ディケムは219年にわたりリュル・サリュース(Lur Saluces)家が所有していたが、長い法廷闘争を経て1999年、フランス高級趣向品メーカーのモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(Moet Hennessy Louis Vuitton、LVMH)に買収された。LVMHは熱狂的な需要創出の可能性を秘めるシャトー・ディケムを豪華ブランドとして確立しようと力を入れている。(c)AFP/PATRICK BERNARD